せいぎのみかた








「神なんていない!」

聖職者の格好をした同僚がそう叫びながら斬りかかるのを、どうにも複雑な気持ちで聞きながらその後背後の悪魔を撃つ。
戦況は有利、エクソシストを二人も送ることはなかったんじゃないかと考えてしまうほど順調だ。けれども順調過ぎるほどの流れにより気を引き締め、教会内の悪魔の殲滅を進める。

いつも通りだ。行方不明者が頻発するという都市を教団が探りを入れ、悪魔の姿を確認すれば疑わしいもの全て隔離し虱潰しに悪魔を壊す。派手に暴れてしまえばあちらから来てくださるので探す手間が省けて大助かりだ。教団らしく教会を拠点に、ゲリラ戦に強い刹那と人間か悪魔かの判断を得手としている俺が組むのも定石である。それでなくとも、悪魔側に加担する人間を迷いなく斬れる刹那は、こういった殲滅戦で重宝されている。発言こそどちらが悪魔か分からなくなるようなものだが。

またひとり、人の形から随分と離れてしまった悪魔を撃つ。悪魔という兵器が生まれるためには少なくとも二人の死者が必要だ。一人の死者とそれを生き返らせたい生者が必須、機械の体を得た死者が自分を呼び出した生者を殺すという儀式を終えて悪魔という兵器は産まれる。
悪魔は成長のためさらに犠牲者を鼠算式に増やしてゆく。人の形を崩したようなそれをひとつ壊す度、いったい何人分の命を壊しているのだろうとふと考えてしまう時がある。それは殲滅には邪魔な思考だ。
そんな時にも耳に入るのは、刹那の揺るぎない言葉だ。
悪魔の上げる人間じみた悲鳴や俺の撃つ銃音に負けず、不思議と通る叫び声。

「俺がイノセンスだ!」
「いや、どんな理論だよ」

ふは、と笑ってしまったがそれどころではない。こまめに変えていたが居場所がバレたようだ。
砲弾の弾幕を縫うように抜けつつ、悪化する状況にではなく刹那の変わらない態度に笑う。優勢か劣勢かも、神とか悪魔とかも彼には関係ないのだ。それを常に態度に出しているから教団での立場は残念だが、味方として組めばこんなにも心強い。
それが関係しているのかは分からないが、その背が愛おしいと思う。もしかしたら今現在守っているはずの町民より、人類より、近しいこの子どもらしくない子どもが。
馬鹿のように真っ直ぐなものは見ていて心地いいだろう。こんな血なまぐさい戦場でも、むしろ、薄汚れた目で薄汚れた場所で見るからか眩しいほどだ。

戦闘開始から衰えない身のこなしで剣を振る姿に援護射撃しつつ、こちらも囲まれないよう忙しなく身を翻す。速撃ちは専門外だがそうも言っていられない、予想されていた数よりも明らかに悪魔は増えていて戦況はじわじわと劣勢に追いやられている。けれども、ここで仕留めなければ犠牲者が増える。それに俺なんぞより余程動いているはずの刹那が見ているうちにも撃破するテンポを上げながら戦い続けているのだ、俺が休んでいられる道理がない。

「刹那、まだ持つか」
「朝まででも戦える」
「朝までか……俺の体力が尽きるのが先かもなぁ」
「ふん」
「なあ?今のため息はあれか、俺の体力がお前よりないって言いたいのか?」
「刹那、目標殲滅に戻る」
「こら刹那!ああ、言わんこっちゃない!」

がむしゃらに見えるほどの勢いを付けて飛び出した刹那が、四方を囲まれることも厭わずに斬り続ける。無駄が省かれた動きはきっと人に観せられるほど綺麗なもので、返り血を存分に浴びるその姿ばかりが惜しいと思う。
帰ったら洗ってやらなければ。そのまま寝たがる刹那を起こして、寄生型独特の食欲もあるだろうから消化にいい食べ物を運んでやって、人らしいことばかりしまくってさせてやろう。

「俺が、イノセンスだ!」

自分を鼓舞するための言葉なのだろうが、何にせよタイミングが悪い。こちらの考えていることなんて分かりも図りもしないだろうに妙に間がいいのが刹那だ。というか、俺達の関係というか。
ああ、負ける気がしない。頬を弛める。目の前に迫る悪魔は子どもの皮を破り銃口を現す直前だ。人間らしいのに、人間らしくない。彼か彼女が安らかに眠れるように祈りながら、ほんの少し笑んでいることを意識しながら、また引き金を引いた。



17.05.27 ×



 

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