初日の様子





荒垣は武器である。そうであるはずだ。
本体が雨風に晒されたバス停であろうとも、刀剣男士と称されているからには主に顕現しているのは刀を本体に持つものばかりの中の異端であろうとも、人間であった記憶があろうとも武器である。武器に宿った人格である。神格ではないからなかなかに雑な扱いを受けているが、ともかくは歴史遡行軍と戦うために存在する己を扱う肉体を得た武器である。




「お前はあれか、世界を救ってないと落ち着かねえ病気にでもかかってんのか」
「いえいえまだ二度目ですし」
「んな謙遜聞いたことねえよ……」

荒垣号もとい荒垣真次郎が純和室でバス停を手にそうぼやく。和室では邪魔なことこの上ないが、それが己の本体であり現在動かしている肉体などよりよっぽど重要なものだと理解しているため、何となく手元から離せないでいた。障子は破いたし湯呑みはひっくり返したし子どもの姿の短刀にリンボーダンスさせてしまったけれども。何気なく振り返ったら映画よろしく子どもが反っていた光景はトラウマになりそうだった。その子どもは笑って「気にすんなよな!」と親指を立てていったので嫌われたり恐れられたりはしなかったのだが……男士というのは基本心が広いのだろうか。荒垣よりも余程年上だからだろうか。

ともかく荒垣は、生前共に戦っていたリーダーに引っ張られ200年くらい未来にしょっぴかれていた。まとめても訳が分からない。

「とりあえず、寮生活と変わりなさそうですしいいんじゃないですか」
「いや何で俺やお前がやらにゃなんねえのかが……」
「なんか僕が一旦死んだ時にバス停お墓に供えちゃったらしくて、すみませんでした」
「一旦ってなんだ……いや、何かもう疲れたからいい。なんでバス停墓に入れてんだ」
「先輩が亡くなってから愛用してました。あのクリティカルの手応え忘れられなくて」
「それで、なんで俺がバス停になってお前に呼ばれるんだ……」
「さぁ……」
「浮気か、主よ」
「おじいちゃんは話ややこしくなるのでいいです」

縁側からひょこりと顔を出した美丈夫を軽くいなし、ずずずとお茶を啜るリーダーに習いこちらも茶を口に含んだ。
200年未来だとぬいぐるみのような喋る狐から説明を受けたはずなのだが、見渡す限り古き良き日本家屋で、執務室らしい部屋には膝より少し高いくらいの机と筆と硯。任務やら審神者の業務やらが書かれているという書面はどうやら和紙のようだ。それをぺらぺらめくるリーダーは見覚えがありすぎる制服姿、俺も常用していたコートである。縁側にて茶を啜る美丈夫ばかり場に相応しく和装だが、腰に差した刀がどうにも物騒だ。

「ええと、鍛刀、初出陣、初手入れ、刀装も終わった……とりあえず出撃しますか」
「おう、編成は」

鍛刀で窯から出てきた自称ジジイが、なんとも言えない顔でこちらを見やった。言いたいことは分かるがこちらはほぼ毎日出撃してたりするのである。今更リーダーの発言に狼狽えない。








足元を落ち着きなく行き来するこんのすけに荒垣が笑い、煮ておいたお揚げを刻んで小皿に入れて床に置く。はぐー!だとか声を上げるのに癒されつつ、おたまで味噌を溶いていればタイミングよく帰還を知らせる鈴の音が玄関から聞こえる。だからどこが未来なんだ、とだいぶ投げやりに思いつつ、味噌汁の味見をして調理の腕が鈍っていないことを確認した。

「ただ今戻りました」
「おう、どうだった」
「ペルソナは出せなくもないですけど疲れますね。殴る方が速い」
「お!美味そうな匂い!」
「おー、手ぇ洗って来い。飯にするぞ」

バス停装備のリーダーを抜かし、リンボーも出来る短刀がメシー!と叫びながら駆けていく。子どもらしい反応である。
椀を棚から出そうとして、そういえば怪我人は手入れだとかで治すのだから食卓につくのかも分からないのだと「何膳出すんだ」と問えば七つと返ってくる。
リーダー、荒垣、短刀の厚、初期刀の山姥切、ジジイ……増えている。怪我人もいないようだし多めに作っておいて良かったが、何故増えてる。
余ったら握っておこうと考えていた釜を空け、既に定員オーバーを感じさせるテーブルに白米やら味噌汁やらを並べていれば初日にしてもう馴染んできた厚が手伝うと申し出てくれたので小皿を運ぶのを任せた。人数が分からないため大皿に大根と豚バラの炒め物をぶっ込んでおいたのは正解だったな、と安心しつつ食卓に着くものを見守っていれば、なるほど、チビが二人ほど増えている。そこまでテーブルが狭そうではないので良かったというか。

「五虎退、です、あの、よろしくお願い、しま」
「今剣です!義経公のかたななんですよ、すごいでしょう!」
「うん。食べようか」

自己紹介が食卓でいいのか。というか全員の言葉を食い気味に終わらせてるがいいのか。突っ込みたい所だらけだが誰も気にした風もなく、各々手を合わせて「いただきます」と合唱する。そこは息が合うのか、と呆れつつも同じように食卓に着き、味噌汁を啜る。

「荒垣先輩、武器より主夫のが絶対向いてます……」
「嬉しかねぇな」
「胡麻和えも美味いぞ、俺も主と同意見だ。して、しゅふとはなんだ?」
「家事全般を担い旦那の不在を守る妻の事ですね」
「おい偏ってねぇかリーダー」
「え?荒垣さん戦わねぇの?」
「厚、お前の明日の手合わせの相手は俺な」
「先輩は怖いよ」
「あ、あの、お味噌汁こぼしちゃいました……」
「あー、先に風呂入ってこい。沸かしてたから」
「すみませんん……」

袖口に引っ掛けたのだろう、傾いていた椀を直して五虎退に火傷がないか等の確認を手早く行い風呂へと連れていく姿はどこからどう見ても主夫の貫禄であった。退出時に「気にしないで先食ってろ」の一言も忘れない。
あの人寮にいた時もだけれど吹っ切れていやしないだろうかと密かに思いつつ、リーダー兼大将兼主となったキタローは温かいご飯をかっ込んでしみじみした。やっぱり先輩のご飯は美味い。

荒垣真次郎は武器である。嫁でも主夫でもないはずである。と、胸を張って言えないのが悩みの。


16.12.05 ×


 

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