いつかの終わり*番外編
 








フィニスが来たのだから、世界は終わる。

終わるとき過ごしたい人はいない、なんてことを言っている人がいたなあと思い出す。きっといたのだろうけれどいなくなったんだろうと。
私はどうだろう。この人と一緒に戦って死ぬことになって満足だろうか。この人と一緒だから戦っているのだし、逃げることも出来なくはなかった。これで、良かったのだろうか。
もう魔力も薬もない、盾は怪我人の前に突き刺してきた。彼女は無事だろうか、と思ったけれど覚えているから生きてはいる。残念だが、時間の問題だろうけれど。
魔道院の中にいるはずなのに敵は尽きることなく現れては襲ってきた。通信で各エリアの様子を伝えていた声が途切れてしまったから、本部はもう落ちてしまったのかもしれない。
援軍は来ない。支援もない。周りの候補生たちはもうみんな倒れてしまった。私だけ、彼に庇われて生きている。
彼の体が傾いで、とっさに飛び出そうとすると冷気魔法で私達を囲うように壁ができる。彼が作ったのだろう。息を整える彼の上に影が見えた。うつ向いた彼に気付いた様子はなくて、今度こそ飛び出して、彼を突き飛ばして剣を体で受け止める。


「ツバメ!」


彼の必死な声なんて、初めて聴いた。それだけしか私は彼と過ごしていないのだ。彼を忘れた私はその程度しか彼を知らないのだ。それなのに彼は私を必死に守る。他に守るものがないように私だけを守り続ける。私にはもう、何もできないのに。戦うことも補佐することも、回復も。
肩が熱いのに体が寒い。ああ、これは駄目だなと感覚で分かった。傷口を確認する気力もなく彼の顔を見る。近いな、私を抱きかかえているのだろうか。
言いたいことはたくさんある、最後だもの。それでも時間が無い。
この氷の壁がいつまでもつかも分からないし、私の意識もいつまでもってくれるか。言いたいことを取捨選択して、伸ばされた彼の手を取って力いっぱい握る。彼はここに居て、私は彼と話している、だから、もう少し。もう少しだけここに居させて。


「私を忘れて」


彼の目が驚愕で見開かれる。こんな表情を見るのも初めてだ。初めてだけれど、もうすぐ忘れてしまうのだろう、少し、もったいない。


「貴方を覚えていない私なんて、忘れて」

「ツバメ、待て、どうして」


言わなくても私が死ねば彼は忘れるはずなのだけれど、言わずにはいられなかった。言い切ってしまえば気が抜けたのか一気に意識が遠のいて、見えるものも曖昧だし瞼が重くて開けていられない。寒い、と思わず呟けば体が何かに包まれる。彼が覆いかぶさってくれているようだ。


「俺は忘れないぞ、いいか、ツバメ」


それは私の望みを否定する言葉なのに、無駄だと分かっているのに、嬉しいと思ってしまった。私は忘れられたいのに、こんな、守られる価値のない私なんて。
暗い。寒い。手だけがあたたかい。もう……。
………声が聴こえる、彼の声。







こと切れたツバメから体を離し、握っていた手を組ませてやり凍った床に下ろす。これ以上傷付くことがないように彼女を凍らせる。固く、溶けないよう、ありったけの魔力を込めた。
まだ忘れていない。他人のファントマに頼るこの体は、クリスタルの加護を受けられない代わりに干渉も受けないようだった。誰もが覚えていない人物を自分だけが覚えている。俺を知らない友人のことも俺は覚えている。
これはただ孤立するばかりの無駄な体質だと思っていた。今までは。

壁が崩れ、仮面がこちらを覗くように屈み込んでいる。数は明らかに増えていて囲まれた状態だ。
崩れきる前にそれを足場にして無防備なそれに切りかかる。

まだ守るものはある。生徒達の意思や決意だ。ここに居た者達の意義だ。
生きたいという、彼らの思いだ。

四肢がもげても武器が無くなろうと戦おうと決めた。彼女にできて自分にできないはずがないのだから。



13.11.01



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