つまさきの行方を
 






レムとマキナはもうフィニスが来ないことを公言した。
その代わり、世界は変わるのだと説明した。

クリスタルの力は徐々に失われ、魔法に頼ることは出来なくなる。歴史に頼ることも出来ない。ルシが私達に道を示すこともなくなる。そしてなにより、死者の記憶は消えなくなると。名のない遺体は消えるだろうと、埋葬を全て終わらせてからそう言った。
それを広場で聞く私は古い世界は死んだのだと思った。きっと、あの教室の候補生達と共に。

魔導院は本来アギトを育成するための、魔法を学ぶために建てられた施設だ。アギトはフィニスの時を導くための存在なのだからこの施設の存在意義はもうない。
それでもこの国の中心であることは変わりないので、再建の拠点となることが生き残った軍の人々や候補生によって決められたと発表があった。
全てが変わるのだと肌で感じる。それは喜ばしくて、怖くて、悲しい、でも祝うべき事だ。


「なあツバメ、お前はこの先どうするか決めたか?」


怪我人のリストと治療の進め具合を報告するついでにしては重い質問を投げられて、とにかくは苦笑で答える。「あー、まあ急だからな」と気まずそうに資料を眺めるナギは忙しいのだろう、答えを急かすでもなくお疲れさま、と言って足早に立ち去った。

ドクターアレシアはついに見付からなかったけれど、地下で瞑想していたというカリヤ院長が筆頭に立ち院も軍も指揮した。各地の被害の確認や物資の分配、死者の埋葬、怪我人の治療などの指示が細部まで行き届いている。お陰で忙しいのだけれどもそれに甘えて、彼と共に各地へ飛びまわっている。やることは尽きない。
院は事実上解体していて、彼の監視をする必要はないのだけれど。

それでも好奇心が抑えられないというか研究が頭から離れないというか、知らなければ進めないことがひとつある。
ほぼ一日休みを貰ったので、また騒がしさを取り戻した魔導院で静かに話せる場所を探していて0組裏庭に落ち着いた。彼と二人きりになるのは久しぶりだ。恐らく、あの研究室を出て以来。
まだ赤っぽい気のするベンチに座り、久しぶりにバインダーを構えた。目の前に立つ、相変わらず口許にマントを寄せた彼を見詰める。


「今、話してもらえますか」


私があの日のことを訊くと予想していたのだろう。彼は隣に座ることはせずにすぐ横の煉瓦に凭れ、快晴の空に目を向けて口を開いた。



13.09.29



前へ 次へ
サイトトップ

 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -