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お礼小説 // 《優しい風》パシラン


「ランちゃーんっ!! ランちゃんっ!!」

フェードラッヘに滞在中のパーシヴァルが城内を歩いていればヴェインの声が見知った人物の名前を呼んでいる。探し人ではないもののその声に振り向けば、愛斧を肩に担ぎキョロキョロと顔を左右に忙しく振りながらヴェインはひたすらに幼馴染の名を呼び続けていた。

「ランスロットがどうかしたのか」
「お、パーさんいいところに!! 俺たち今回の古戦場に呼ばれてるから赴く前に後輩たちを鍛えてこうぜってランちゃんと話をしてたんだけどさ〜。その肝心のランちゃんが行方不明なんだよなぁ」

ガリガリと困ったように頭を掻きながらヴェインが首を傾げる。通りで私服姿の自分とは違って鎧を身に纏っているわけである、とパーシヴァルは納得した。確かに今回の古戦場メンバーの欄にはランスロットとヴェインの名が書き込まれており、準備のために休暇をとっているはずだ。「古戦場が近づいたら三人まとめて迎えに来るね!!」と頼んでもいないのに団長であるグランによってパーシヴァルがフェードラッヘに問答無用で降ろされたのは数日前のことである。

「もしよかったらパーさんもランちゃん探すの手伝ってよ。ほら、昔よくサボりに使ってた場所とか知らない?」
「ランスロットが仕事をサボる人間に見えるか?」
「見えないけど……んー、息抜きスポットみたいな? ランちゃん昔から秘密基地とか作るの好きだったから、絶対にそこで読書とかしてていつの間にか寝ちゃってると思うんだよなぁ」

深々とため息を吐きながら「そうなりゃお手上げ」とヴェインは片手を大袈裟にあげて見せる。付き合いが自分よりも遥かに長いヴェインがその姿を見つけられないのだから、相当なものだろう。
パーシヴァルはいくつか心当たりがある箇所をあげてみたが既にヴェインは訪れていたらしく「もっと隠れられそうなところっ!!」っと無茶を言うのだった。

「だいたい、隠れやすいところなどこの城にはーー」

パーシヴァルが思わず綺麗に整えていた髪を軽く乱し始めた時、1ヶ所だけランスロットが向かいそうな場所が頭に浮かぶ。それは黒竜騎士団時代、二人が副団長として奮闘し始めた頃まで話は遡る。
普段から貴族たちに囲まれて過ごしていたパーシヴァルとは異なり、晩餐会や顔見せといった慣れない環境に目に見えて疲れ果てていたランスロットにジークフリートが特別に半日だけ休暇を与えたことがあった。その際に「お前たちだけに教える息抜きに最適な秘密の場所だ」とジークフリートが子供っぽく笑い、自分たちだけに教えてくれた秘密の場所。普通にこの城で過ごしていてはまず気づくことがないその場所は未だ健在なのだろうか。ランスロットがいるのであればもうそこしかないだろう、とパーシヴァルは確信した。

「俺がランスロットを連れてきてやる」
「いいよ、場所さえ教えてくれれば俺が行くって。パーさんも忙しいだろ?」
「俺は客人だからな、お前たちよりは自由がある。お前は先に部下たちの面倒を見ていてやれ。それに、心当たりの場所は説明しづらい」
「そう? なんか悪いな、でもよろしく頼むぜっ!!」

少しだけ申し訳なさそうに眉を寄せながらも、ヴェインはぶんぶんと元気よく手を振り、パーシヴァルにランスロットの捜索を依頼する。パーシヴァルは軽く手を振り返すと、秘密の場所へと向かった。


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