私は確かに沖田総司という人間を愛している。だが哲学的な話になってしまうかもしれないが、私は私の傍にいてくれる彼を愛しているのであって沖田総司を愛しているのではない。 私に微笑む彼、私に話す彼を私は愛し、違う人に微笑む彼、違う人に話す彼を私は愛さない。 沖田総司は私に接吻をくれるし、愛を感じている。幸せだと私も感じる。 だけど時々どうしようもなく彼を遠く感じる。 彼が人を斬るたびに私は彼から遠退いていく気がしてならないのだ。 沖田総司はその血塗れた手で私を胸に抱く。私も抱き返すけどいつだって嫌悪と不安で溢れている。その血に塗れた手で私の頬を撫でるたび、私は背筋にうじが湧いているのではないかというくらいに震えるような気持ちになる。私は口づけられる度、このまま殺されてしまうのではないかと不安に襲われる。 ありえない。 沖田総司は私を殺さない。うん。 「ねえ、総司さん。その血塗れた手は誰のため?」 なんて聞けないから今日もお勤め頑張ってね、と笑顔で彼を送り出す。いつものこと。いつもの日常。どうせ今日もけろんとした様子で帰って来る。 「ねえ、」 「あ、なに?」 今日は呼び止められた。巡察の前に呼び止められるのは稀だ。いつもは手をひらひら〜と振って終わりなのに。 「気付いてた?君、死ぬんだよ。」 「……え?」 体を何かが通る。ジャバと、水が弾けたような音がして私の体から力が抜けた。 「……、」 あったかいのがたくさんながれて、くさい。 「……なんで、」 地に伏したまま聞くと刀にべったり赤をつけた彼は泣きながら微笑んだ。 「君が間者だからだよ。」 自然と目が見開いた。 うそ。うそだ。うそ。うそ。 「……うそ。うそ。…うそよぉ。」 こんなに愛したのになんで報われないの? なんで、 「君を土方さんに引き渡すのはさすがに可哀相だから僕が殺してあげる。どうされたい?」 「………、」 彼の涙が唇を通る。 「ちっそく、したい。」 私の首をしめてその唇で私を愛して。 0129 戻る |