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※Another世界観。不幸で死ねた


あとどれほど大切なものを失えば、あの穏やかで暖かな日常は戻ってくるのだろうか。


最初はペットの犬だった。
いつもいつも愛に満ちた目で私を見ていた。私も勿論これでもかというくらいに愛したし、そのペットから多くの愛情をもらったと思う。でもいつもの散歩中に体調の変化がおき、抱き抱えて家に連れ帰るときには暖かな鼓動の音はなかった。


次は母だった。
もともと体が強いわけではなかった。でも私を産んでくれたし、家ではいつもご飯を作り、洗濯をしてくれている。
母の死因はただたんに急性の心臓麻痺だった。
誰にも予期できないことだった。それでも私は死に際傍にいれたら、と不幸に嘆く父を慰めた。
こうして身内が死にゆくことはわかっていた。いや、確信はなかった。それでも、周りでそんなことが沢山起こっているのだから、想像くらいはする。






今日もまたクラスはいつものままだ。良い意味でも悪い意味でも変わらない。誰かはピリリと神経を張り詰め、誰かは何もないふりをする。

私は席につくと窓をみた。
仲良しな友人はまだ来ない。
まだ、まだ…………
まだ。

「××が亡くなったそうだ。」

先生の告げた言葉に私は思わず発狂した。声を上げて顔をおおった。先生の口から出たのはまぎれもなくいつも話す彼女の名前だったからだ。間違うはずなんかない。証拠にみんな仲が良かった私を見て悔しそうに下を向いた。

「…は、はは。」

次に出たのは笑い声だった。何を考えるにも嫌なことしか頭に回らなくなったのだ。ペットの死、母の死、極めつけ彼女の死。

「はは、は、ははははっ。あっははははは!…っ、う、っく…、」

私の嗚咽に赤沢さんが背中を撫でてくれた。ちらりと彼女を見ると彼女は悲しい瞳で私を見ていた。


この学年のこのクラスは呪われている。


死者は、誰―――?


彼女、鳴さんの机にあった言葉が頭で回る。

「……私、帰る。」

かばんに物を入れて廊下に出る。

がらっと年期の入った扉を開くと鳴さんと転入生の彼がいた。

「…鳴、さん。」

私は三年になる前、少しだけ彼女と関わりがあった。ただクラブに残っていて、雨に降られて帰れなくなった私に彼女は折りたたみ傘もあるから、とピンク色のかわいらしい傘をかしてくれたのだ。
でも私は彼女が傘を挿さずに帰るのを見ていたのだ。


「鳴、さん。…ずっと無視してごめん。傘、今日にでも返しに行くね。」

泣いて腫れぼったい目を隠すように意識して笑うと彼女は私に言った。

「名前さん、…帰り道には気をつけて。」

「……ありがとう。」


私は穏やかに笑った。泣いていたから滑稽だったかもしれない。

そして私は帰り道の中、田舎にしては少し大きな道を渡ろうとしたときに車に激突された。私は空を飛んでいる最中、運転手の顔を見た。


「…………おと、さん。」




そういえば、鳴さん……目が緑色だったな。
すぐに冷えてしまった流れる血に触れる。
ピチャリ、とまるで水をはじいたかのような音がした。
彼女はこんな風に寒く、孤独だったのだろうか。
あの日の傘を挿さずに去る彼女の背中が、やきついて離れてくれない。



0401
暗い

何故こんな暗い


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