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「今…なんて…?」
沈黙を最初に破ったのはラビだった。
「だから、あたしはこの船から降りれない」
「それって…」
「うん、そう言うこと」
自分なりの笑顔をみんなに向けるが誰も返してはくれなかった。
「ご、ごめんなさいっ…私が…!」
「ミランダは悪くない。だから謝らないで?」
「だって…!!」
「あたしを最後まで戦わせてくれてありがとう」
首を振ってミランダに目を移すと意味を理解したのかリナリーは言葉を殺し溜めていた涙を流した。
「私、もう少しなら…」
リナリーに体を預けていたミランダが体勢を直す。
「…お願い、無理して欲しくないの」
「私なら本当に大丈夫…」
「ミランダはこれからに備えなきゃでしょ?」
「無茶はしないからっ…!」
お願い…、と泣きじゃくるミランダを抱き締めるリナリー。ミランダの意思に誰も賛成も反対もせずにただ沈黙が流れた。
「…ありがとう」
「…もしもし、ユウ?」
「あぁ、どうした?」
「うん。今、大丈夫?」
与えられていた部屋に入りゴーレムの回線を繋げると長いコールの後に聞こえてきた今一番会いたい人。
「あのね、急なんだけどさ…」
「ん」
「そのー…さ、」
「なんだよ」
「…あたし、もうユウに会えないみたい!」
「……は?」
教団を出てからの経緯を話す。
その間、ユウは相槌も何もなくただ静かに話を聞いていた。
「だからお別れ!次に付き合うならもっと可愛い女の子探しなね!」
「…で?」
「え。…話聞いてました?」
「生憎、お前の意志がないような話は聞こえねぇな」
「っ、」
言葉を待つかのように黙り混むユウ。
「…ユウのばか…っ、」
「うるせぇ」
「ゅ、う…あたし、もっと生きたいっ」
涙が止まらない。喉が焼けるような感覚。エクソシストになった時点で覚悟はしていたつもりだった。
嗚咽が混じりながらもみんなの前では言えなかった気持ちを伝わるようにと必死に言葉に変える。
「まだしたい、こと沢山ある…のにっ。どうせ死ぬなら、ユウに見送られたかった…ユウと、もっと一緒にいたかった」
ごめん。
涙が止まらない事。先にここからいなくなる事。謝って何かが解決するわけでないと分かっていても止まらない言葉。
「待ってろ」
「……え」
「お前は俺が死ぬまで待てねぇのかよ」
予想外、と言ってもユウがどんな言葉を口にするかなんて分からなかったが全く思ってもいなかった言葉に理解が遅れる。
最後だと言うのにいつもと変わらない偉そうな口調に思わず笑ってしまった。
「何笑ってんだよ」
「だって…ユウにしては非現実的だったから」
「うるせぇ」
ユウの一言で不思議と涙が止まった。胸に響いていた速い鼓動も緩やかになっていくのを感じる。
「ユウなかなか死なないじゃん」
「俺だっていつかは死ぬ」
「えー、それじゃそれまで向こうでデイシャと仲良くしてようかな」
「テメェ…」
少し不機嫌になったユウを笑うとゴーレム越しに舌打ちが聞こえてきた。
「あーあ、こんなことなら恥ずかしがらずにもっと好きって言えばよかったなー」
「はっ、今更だな」
「うん。…だからユウがこっち来た時には鬱陶しいぐらい言ってあげる」
「期待しといてやるよ」
いつもの長期任務の時の様な雰囲気に感覚が麻痺してしまいそうになるが、部屋の外が少し騒がしくなってきたのが耳に入り現実に引き戻された。
「ユウ、大好きだよ」
「…取っておくんじゃなかったのかよ」
「ユウ……あのね…」
jepenseatoi(あなたの事を想っています)
(思う存分に生きて)
(ずっと待ってるから)
end..
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