365 | ナノ


あとちょっと(おそチョロ)

2015/11/17 17:53

あとちょっと、とおそ松兄さんが言うときは、大概全然ちょっとじゃあない。
「もうそろそどいてよ。ぼく、もう出かけるんだから。」
ぼくがほとんど一分置きにそう言っているのに、兄さんときたら漫画雑誌を手に持ったまま
「そうカッカするなよ、チョロ松。ほんと、あとちょっとで読み終わるから。」
と言ってちっとも取り合ってくれない。
そんなやり取りを三十分以上も続けている。
その間中ずっと、おそ松兄さんはぼくの背中に体を預けてまるで椅子の背もたれみたいにしていた。
「ほんとにあとちょっとだけだよ。」
「んー……」
おそ松兄さんから気のない返事が返ってくる。
ぐぐっ、と背中に体重がかかった。
「ほんとに、あと五分で出かけるからね。」
ぼくは、おそ松兄さんの指が何分もページをめくる動きをしていないのを知っている。
ザリ、と粗いザラ紙がこすれる音はなく、部屋の中にはぼくと兄さんの声だけ。
あと数ページ、あともうちょっとを、もうずっと引き延ばしているのだ。
背中にのしかかるおそ松兄さんの体温が、ぼくにすっかり移っている。
「……わかってるって。あとちょっとだけ。」
ぼくの言葉に、ワンテンポ遅れて返事がくる。
おそ松兄さんはあとどれだけちょっとを引き延ばすのだろう。
だが、その「ちょっとだけ」を許してしまうぼくもまた、大概なのだ。




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