階段を上った先に不動が立っていた。
腕を組んで壁にもたれている。
何か声をかけた方がいいのだろうか。
消灯時間が近付いているから、おやすみ、とか。
でも無視されそうだな、じゃあしなくていいか。
いや、目の前通るのにそんな気づかないふりみたいなことできな

「かぜまるくん」

「え!?あ、ああおやすみ」

「待ぁ〜てよ、俺と遊ばねえ?」

「あそ…」

遊ぶ?

「…あぁ。いいぞ、何するんだ?」

「せっくす」

「あー……え?…ええっ!?」

「俺と、してくんね?」

「ななな何いってるんだ!!からかわないでくれっ!」

「ハハッ!からかってるわけじゃねーよ。嫌ならいい、他の奴に頼む」

「え、ほ他の奴って…っ!お、いまて!」

「お、してくれんの?」

「違う!ち…違う!」

「なんなんだよ」

「こっちのセリフだ!ちょっと来い!」


不動の腕を引いて俺の部屋に連れ込んだ。部屋に入って手を離すと、不動はベッドの上に腰掛ける。

「不動…お、俺は何番目だ?」

「ん〜?」

「…遊びに誘ったのは…俺で何人目だ?」

「1。お前が最初」

「え」
ありがとう と言いそうになった。違う、そうじゃないだろ一郎太。冷静になれ。

「そ、そうか…とりあえず、もう他の奴は誘うなよ」

「なんでだよ?あ、俺を独占したいとかぁ?」
「ち、違う!」
アハハ と無邪気な笑顔を見せて不動が笑う。すごく楽しそうだ。普段のニヤッとした表情ではなく、中学生らしい笑顔に少し、本当に少しだけドキッとしてしまう。少しだけだ。

「相手してくれよぉ〜。俺欲求不満で死んじゃう」

警戒してベッドから離れて立っていた俺の腕を引く。不動の腕は冷たかったが、掌は熱かった。俺を無理やりベッドに座らせて、顔を近づけてくる。本気なのか。
頭の中で警報が鳴り出した。不動の白い肌が、とても気持ちよさそうで、おいしそうだ。
何を考えてるんだ俺は!

「そんなことで死ぬか!一人でぬけばいいだろ!」

もうだめだ 何を言ってるんだ俺は…

「ん〜?この部屋で一人でしてるとさ、すげー虚しくね?それにお前も1人で抜いてんならさー、結局同じジャン?」
頭の中がめちゃくちゃで、それなのに不動の言葉を俺の脳はいちいち映像化する。

「なぁ?オナニーの延長みたいなもんだろぉ?」

待て待て待て
不動の顔をみる。俺を誘うように、というか実際誘っているのだが、上目づかいで、それでいて小さな子供のようなキラキラした笑顔を俺に向けている。

なんで なんで俺?

『俺と遊ばねえ?』
ふと、事の発端である不動のセリフを思い出す。
そうか
これは遊びなんだ。
不動は俺をからかって、俺で遊んでいるんだ
というかそう思いたい。
セックスなんてする気ないんだろ?
俺のうろたえる姿を見て楽しんでいるわけだ。不動の考えそうなことではある。


だとしたら
遊びに付き合ってやらなきゃな


「そうだな」
普段の自分を思い出して、なるべく淡々と、表情を作ってしゃべる。

「ん?」

「お前となら、いやじゃないし」

「………」

「でも俺、初めてだから上手くできるかわからないけど」
自分で言ってて恥ずかしい。

「え、え、な…に?」

「しようか、セックス」

不動の目が大きく見開かれていく。
よかった。一か八かの賭けだったわけだが、あたったようだ。安心と同時に

勝った。

なんて。

「…急にどうしたんだよぉ?」

「どうした、っておまえが誘ってきたんじゃないか。俺を選んでくれたわけだし、それに応えなきゃな」

「そ……あ…いや、俺は…」

「始めようか」
俺がジャージを脱ぐと不動は絵に描いたように慌てだした。こんな不動を見るのは初めてだ。なるほど、これは面白い遊びだな。ああ、俺、いつからこんな腹黒くなったんだ…

「どうした?お前も脱げよ」

「い、や…おれはっ…」

「ん?脱がせて欲しいのか?」

「ち!ちげーよ!」
だめだ、笑っちゃだめだ。
というか俺、どこまでやる気だよ

不動、早く謝んないとホントに始まっちゃうぞ。

「何ためらってるんだ?オナニーの延長みたいなもんなんだろ?」

不動の頬に触れようと手をのばす。指の先が頬に少し触れた瞬間、ビクンと不動は不動は後ろに勢いよく逃げた。

「どわぁあ!?」

逃げた先はベッドの外で、不動はマンガみたいに頭から床に落ちた。両足の膝から下だけベッドの上に残っている。

「くっ…あはははは!」

だめだ、これはさすがに我慢できない。今まで我慢してた分、俺は盛大に笑った。
本当は不動が謝るまで、と思っていたのだが。
動かない不動を見て頭でも打ったのかと心配して見てみると、ベッドの下で仰向けのまま目をぱちぱちさせていた。その姿が余計におかしくて、妙に可愛くて、笑いが止まらない。

「ははっ…あ…もう、だめ…死ぬっ…はははは!」

やっと不動が起き上がってきた。もちろん顔は真っ赤だ。
ああでも自分がこうなっていたかもしれなかったのだ。そう思うと可哀想だが、どう考えても、自業自得だぞ。

「て、てめえ…!だま、したなっっ!」

声を震わせて不動が言う。
俺は懸命に呼吸を整えた。涙も拭いて、さあ、なんて言ってやろうかな

「人をからかうのはよくないぞ!不動!反省しなさい!」

不動は何か言いたそうだが何も言ってこない。というか。何も言い返せないのだろう。口をぱくぱくさせて、ついでに体も震えている。


「お、覚えてろよっ」

安っぽい捨て台詞を吐いて、不動はばたばたと部屋を出て行った。
楽しい遊びだったな?
不動の表情がたくさん見れた。思い出すとまた笑いがこみ上げる。



Did you have fun?



また今日も、不動との距離が近づいた。

近づき方が、少しアブノーマルだけどな



END


2010/05/30
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -