「さみぃ…」
ここ2、3日か雨が続いている。


春の雨には


春だというのに今日の気温は一桁。強度の配慮しかなされていなそうなこの合宿所では、室内だというのに息が白くなりそうなくらい寒い。暖房らしきものが壁に埋まってはいるが、4月に暖房なんてついているはずもなく、監督に言っても無駄だったらしい。
もちろん雨で練習はできない。一時期は室内で練習をしたこともあったが、各部屋のダメージが監督の予想を越えていたらしく、今では禁止となっている。昨日は体育館で練習をしたが今日は他の部が使っているし、次の対戦相手もまだ未定の状態だ。
今日はホールでの筋トレが終わって、午後が丸々自由時間になった。

「さむ…」

自由時間を与えられ、どうするどうすると話す友人達の目を盗んで、俺は迷わずここに来た。
二人で過ごせる時間が増えたと喜ぶ俺の訪問を、不動は舌打ちをしながら迎えた。二人で何をするわけでもないが、それでも俺にとっては大切な時間。
俺の左隣りで寒い寒いと連呼する彼は、俺と過ごしているという事実を周りから隠そうとする。だから普段は、夜の少しの時間しか一緒に過ごせない。

二人でベッドを背もたれにして雑誌を読む。もう何度も目を通した雑誌だから、俺の場合は雑誌を読む振りをしながら不動に話しかけたり、不動の仕草を観察してみたり。面と向かってこれをすると不動はうっとおしがる。
それでも毎日通っただけあって、少しずつ俺に心を開いてくれている…と俺は思っている。例えば、前までは不動はいつもベッドの上にいたが、最近ではこうして俺と肩を並べてくれる。それが俺はどうしようもなくうれしいのだが、言うと不動は照れて、またベッドの上に戻ってしまうだろう。

よほど寒いのだろうか、普段はしない体育座りをして、いつもより体を小さく丸めている。

「ほら」
俺はベッドの上にぐしゃぐしゃに置かれていた毛布を不動の肩にかけてやった。不動はこっちを向いて「ちっ」と舌打ちをしたあとに口を少し尖らせた。
不正解のようだ。不動は満足していないときにこの顔をする。
彼はどうして欲しかったのか、考える。
俺のジャージをかけてやるとか。同じサイズのジャージを着る不動に?他には…


抱きしめてやるとか


いやいやないないない
確かに俺は…不動が好きだ。でもそれを口に出したことなんてない。ましてや不動が、俺の熱を求めてるなんて…あぁ、なんかやらしい表現になってしまった。

「…なんだよ」
腰をずらして不動に近づいてみる。
「いや…寒いから」

ぴったり、不動にくっついた。正直自分で驚いている。途中で逃げられるか、叩かれるかされると思っていたから。毛布越しで、不動の熱はなかなか伝わってこない。
不動が両足を伸ばした。
俺も伸ばしてみる。
背丈が同じくらいの俺達は、足の長さも同じくらい。
不動の足が俺のにコツンと当たった。俺は靴下を履いてて、不動は素足で、くっつけてみると冷たかった。

「不動、靴のサイズいくつ?」
「23」
「あ、同じ」

しかし並べてみるとどうみても俺のほうが一回りは大きい。
「そうか、足のサイズが靴のサイズじゃないもんな」
「なにぃ?!」
「あ!あー、いや…」

不動が俺のほうを向く。俺が不動のほうを向く。いつもよりずっとずっと顔が近い。
「あ、はは…すまん」
慌てて視線を外す。どうしよう。顔が赤くなってはいないだろうか。
不動が俺を見てるのがわかる。

しばらくの沈黙。

体が固まって動かない。不動がゆっくり体育座りに戻った。
沈黙なんて慣れているはずなのに。何か、早く何か話さなければ。
「風丸」
「ん?」
練習中以外で名前を呼ばれるのは、初めてかもしれない。思わず不動を見る。正面を向く不動は頬を赤く染めていて。


「お前さ…」

なに、なに、なんだ?

まさか、もしかして

「お前…俺のこと」
「す、ストップ!」
「…ハァ?」
「ストップだストップ…!」
「な、なんだよ言わせろ!俺のことす」
「だ、だめだ!」
慌てて右手で不動の口を塞いだ。不動の顔は真っ赤で、きっと俺の顔も赤い。
不動はムスッとしている。そんな表情も可愛い。やっぱり不動が好きだ。
「ちゃんと…」

不動が大好きだ。

「今度、ちゃんとお前に、伝えたいから…だから…今は聞かないでくれ」
ゆっくり手を離した。不動は口を少し尖らせた。

「…もうばれてんだから、いつ言ってもおんなじだろ」
「え、あ…で、でも準備が」
「何の準備だよ」
「心とか、え演出??とか…」
「ふぅん」
「今度ちゃんと、ちゃんとお前に言うよ」
「今度っていつ?」
「ん?んー…ま、まだ未定…」
「…あんま俺を焦らすんじゃねぇぞ」
「!!…あぁ、待っててくれ」
俺が微笑むと不動は下を向いてしまった。それでも少し、本当に少しだけ、不動の口角が上がった気がした。
じわじわと、胸の奥から暖かい何かが沸き上がってくる感覚。これが愛しさなんだろうか。
この気持ちをどうやって伝えよう。どんな言葉が合うだろう。不動はどんな顔をするだろう。どうせなら不動を驚かせたい。はやく伝えたい。




「ところで…いつからばれてた?」
「さぁな!」


雨の止む気配はない。明日も雨なら、なんて言ったらみんなに怒られそうだ。


END


2010/04/18
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