雨がなにかを洗い流してくれるなら、
この余分な感情を

残さず







突然のどしゃ降り。俺は宿舎へ走った。普段観光客で賑わうこの通りにも、こんな時間では誰もいない。この雨に降られているのも、きっとこの島では俺くらいなものだろう。
宿舎が見えた途端、俺の足は走る気がなくなったようで、ゆっくりマイナスへ加速していった。
冷たい雨はランニング後の火照った体にはちょうどいい。



そのままなんとなく、グラウンドを見る。宿舎に背を向けて、弱い街灯の光にぼんやりと照らされながら。本当にただ、なんとなく。
冷たい水滴が俺の身体を侵す。汗と混じって少し気持ち悪い。伝う水滴は俺の体温を吸って温くなっていく。服が肌にへばりつく感触が俺は好きだ。何かと一体化するような感覚。全身の触覚をフル稼働させる。


突然雨を感じなくなった。

「なにしてるんだ?」
ふわっと体が熱くなる。あぁこの声。また、来てくれたのか。
「さぁね…なんだと思う」
そっと、隣に来た人物に目をやる。下はジャージ、上はTシャツ姿で、この冷たい雨の中出てくるような格好ではない。俺を見つけて慌てて飛び出す風丸の姿を想像する。
…自意識過剰だな。俺。
「俺も無性に雨にあたりたくなるとき、あるよ」
「なんで」
「ん?」
特に意味もなく聞いてみた。
「…洗われる気がするから」
「なにを?」
また小さく「ん?」と言う。
「こう…成長するにあたって…塗り固められてきた…まぁ、そんな感じの」
「なんだそりゃ」
「上手く言えない」
風丸はおどけたように笑った。俺は自分の頬が熱くなるのを感じて、一歩前に出て再び雨を浴びる。冷たくて気持ちいい。俺にはこの冷たいのがお似合いだ。誰かの傘の下なんて、俺には不釣り合い。

カシャン

何かが落ちる音がして、見ると風丸が傘を放り出して空を見上げていた。みるみるうちに風丸のTシャツが濡れて肌に張り付いていく。
「風邪ひくぜ」
「お互い様」
風丸はあっという間に俺と同じくらいびしょ濡れになってしまった。頬に張り付くあの長い前髪をかきあげる。
俺は思わず傘を拾い上げ、風丸の頭上に掲げた。
「ありがとう」
「バカじゃねぇの」
「…俺だってさっき、同じ気持ちだった」
「はぁ?」
「好きな人には濡れて欲しくない」
「!…お、俺はそんなつもりでお前に…傘をさしたわけじゃない」
「そうか…残念」
傘を差し出すと、風丸は傘を持つ俺の手に強く手を重ねてきた。風丸の手は暖かかった。俺の手にも風丸の体温がゆっくり移ってくる。

本当、バカなのは俺だよ。
だからこんなバカな俺はほっといて、早く俺のことなんて見捨てて。





「なぁ、さっきの続き、思いついた」
「ん?」
「素直になるのを邪魔する感情…で、どうだろう」

そんなもん洗い流されたら俺には

「なるほどね」

お前しか残らない。

END
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風不の日フゥ〜!風不風不風フゥ〜!
記念すべきこの日にわかりずらい小説UPしちゃってすみません。もっとラブラブなの書きたかったな…はは
今回は風→←不でした。ちょっと初心に戻って、両想いなのに不動がいつまでも素直になれない話でしたフゥ〜!
2012/02/08
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