「いや、今年はこっちで過ごすよ。明日はそっちに顔出すから」
『そう、じゃあお餅もっていって。帰ってくると思って多めに買っちゃったから』
「うん。わかった。じゃあまた明日」

不動と一緒に暮らし始めて初めての大晦日。大掃除やなんやらで親に連絡するのをすっかり忘れていたら母親から電話が来た。用件は大晦日くらい帰って来いというものだった。といってもここは稲妻駅から数駅しか離れていないので今からでも帰ろうと思えば帰れるのだが。

「風丸ー」

毎年大晦日は家族で過ごしていた。恋人ができても、それは変わらないんだろうと小さいころからなんとなく思っていた。

「なあ、明日どーすんの?」

こんなに愛しい恋人ができるとは、思ってなかったので。





「そりゃ初詣だろ。明字神宮行こうぜ。」
「はぁ!?それってあのめちゃくちゃ混むところだろ?俺さっきのスーパーでもうこりごり…」
「ちょっと並んだくらいじゃないか。でも、初詣は行くだろ?」
「…ん。でも近所でいいじゃん。稲妻神社で」
「えー」

12月31日現在18時14分。年越しの特番を見ながら少し早めの夕食。メニューはもちろん年越しそば。それと奮発して買った海老と冷蔵庫に余ってた野菜を手当たり次第に天ぷらにした。不動は本当に料理がうまい。俺がネギを切っている間につゆと天ぷらをさっさと作ってしまった。(俺は本当にいい奥さんをもらったと思う。)
不動の隣で不動特製の年越しそばを食べる。俺は幸せだ。

「不動は大晦日、いつもどうやって過ごしてるんだ?」
「ん?別に普通に…テレビ見たりごろごろしたり」
「やっぱりそうだよな!チャンネル争いとかする?」
「……しねえよ…一人だからな」
「え」

しまった。まずいことを聞いてしまった。

「あいつら大晦日も仕事なのよ。まぁ、年が明けるまでには帰ってくるんだけどな」

不動がそんな大晦日を過ごしていたなんて知らなかった。知っていたら一人にはしなかったのに。

「過去のことなんていいじゃん。今は風丸クンと一緒なんだから」
「!!」

不動は頬を赤らめながらそばを啜る。俺は黙って不動の頭を撫でた。





「そうだ!鐘撞きに行こう!」
「は?」

現在23時40分。正直テレビにも飽きてきた。せっかくの初めての不動との年越しだ、もう少し刺激が欲しい。

「鐘?鐘って除夜の鐘?」
「そ!ほら、すぐそこのお寺で200円で撞けるらしい」
「…寒ぃよ」
「着込めば平気!ほら早く!」

そう言ってソファに座ったままの不動の首にマフラーを巻きつける。あと手袋と帽子と…カイロもいるな。

「えーマジで行くの?」
「マジ!」

不動はじぶしぶといった感じで立ち上がる。俺は自分の手袋を捜索中。

「不動ー俺の手袋知らない?ほら、お前にもらったやつ」
「あ、昨日俺借りた。俺のバックの中、ない?」
「お、発見。って、テレビ禁止!急げ!時間ない!」

テレビを見ながらのろのろと着替えている不動を見て急いでテレビを消す。不動は少し不満そうな顔をした。


「準備完了ー風丸遅い」
「おい、そんなんじゃ寒いぞ。ほら、耳あて」

不動に耳あてをつける。それとさっき首に巻いてやったマフラーが床に転がっていたので、もう一度ちゃんと不動の首に巻く。

「近所なんだから平気だろ」
「きっと並ぶぞ。お前寒がりなんだからちゃんと」

ゴーン…

「は?」
「えっ!」

ゴーン…

遠くから微かに鐘の音が聞こえる。慌てて携帯を開く。
『0:00』

「ばかぜまる…」
「うわー…あ、あけましておめでとう」
「ん。おめでと」
「…どうする?」
「…とりあえず」
「だな。とりあえず」

ちゅっ

とりあえず初キス。
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あけましておめでとうございます!
途中でデータが全部消えて、尋常じゃない喪失感のなか書きました。いろいろ思い出せず、消えたデータより短くなりました泣
2012/01/01
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