俺は今不動明王という男をつけている


Yellow 1



日本代表チームの練習が終わると、不動はいなくなる。いなくなって、次の練習には少し遅れてやってくる。そんな日が続いていた。
不動が普段どんな生活を送っているのか、気になった。でも他のメンバーには聞けなかった。とくに理由はない
不動はいつも練習が終わって、俺たちの着替えが済むときにはもういなくなっている
でも今日は不動が部室を出て行くのが見えた。だから追いかけた。

不動は大した警戒もしていないようで、ついて行くのは簡単だった。不動は河原のほうに向かっている。やはり河原で野宿でもしているのかと、
「何か用かよ」
「うわ!」
角を曲がると、不動が立っていた。驚いて、不動とぶつかりそうになるのをどうにか回避する
「何か用か」
俺を睨む。そういえば不動と目が合うのは初めてかもしれない。不動はいつも鬼道ばかり見ている。
不動の目は緑のような、青のような色だ。そういえば源田も同じような色をしていた気がする。源田と違って澄んでいないように見えるのは、単なる先入観だろう。
「そ…どこに行くんだ?」
「………」
不動がいつもの笑みを浮かべた。ヤバいと、まずいと思った時にはもう遅くて、俺は不動に蹴り飛ばされた。
「バーーカ」
蹴られ慣れていない俺は上手く受け身が取れずに、地面にあちこち打ちつけてしまった。
「あ〜あ〜あ〜…」
不動は俺の無様であろう姿を見て満足そうだ。そしてあろうことか俺のわき腹にもう一発蹴りをいれて去って行った。チームメイトに本気で二発…そういうところはさすがだと思う。
去り際に、不動が何か言った。よく聞き取れなかったが最後の”大っ嫌いなんだよ!”だけはわかった。ああ、不動は俺のことが嫌いなのかと、不動の背中を見ながらぼんやり考えた。

次の日、
また不動は練習に遅れてやってきた。円堂が「遅いぞ、不動!」と言って不動が「はーいはい」と言う。今日も俺は不動と目が合わなかった。不動は他のメンバーのことをよく見ている。だからきっと俺のことも見ているのだろう。でも目は合わない。
練習が終わって、着替えが終わるころには不動はいなくなっていた。俺は急用がどうとかいって、部室を飛び出した。昨日とは、河原とは反対の、駅のほうへ走った。
不動のことを考える。きっと人通りの少ない道を通る。
「…っえ」
見つけた。こんな簡単に見つかるものかと思いながら。不動はだいぶ髪型のせいで見つけやすい、まあ、自分もなのだろうが。距離をおいて、不動をつける。不動は高架橋沿いの道をずっと ずっと歩いて行く。

2駅ほど歩いた。もう辺りは暗くなり始めている。だが不動の家はまだらしい。そもそも家なんてあるのか。あったとして、まだ影山といっしょだったらどうしようかと考えたが、杞憂に終わった。
不動は穴のあいたフェンスをくぐっていく。どうしようか迷った。どうみても私有地だ。何かの工場だろう、相当広い。フェンスの向こうには何か巨大なコンクリートの塊が大量に並んでいる。不動はその塊の間に消えていった。慌ててフェンスをくぐる。足元は土。そっと不動を追いかける。

巨大なものの正体はいわゆる土管、というやつだった。土管の長さは4メートルほどで内径は1.5メートルほどあるだろうか。それが横に並べられ、さらにもう1段同じものが積まれている。不動がその中2段目の土管に入っていくのが見えた。
回り込んで逆側から中をそっと覗く。懐中電灯の光と、鞄と、不動の頭が見える。不動は俺のほうに頭を向けて横になっていた。まさかこんな所で、と考えながらそっと不動のいる土管から離れる。歩きながら考えていた、俺は不動をどうしたいのかと。もう結論は出ている、2駅も歩いたのだから。
不動をつれて帰る
直接俺が声をかけても昨日のようになるだろう。俺は携帯を開いた。円堂に電話をしよう、円堂なら不動をきっと
「………」
考えがまとまらないうちに、俺は番号を押す

110




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昨日、風丸に後をつけられた。風丸一郎太。こいつがこんな、無駄なことをするとは予想外だった。
部室を出た時点で不自然な視線に気づいて、それがついてきたのがわかった。青い髪が見えて、あんな目立つ髪で俺を尾行とは と。帰り道と逆を行って、ついてきた風丸を蹴飛ばしてやった。風丸は結構軽くて、思ったより飛んだ。それが楽しくて、もう一発蹴ってみる。
俺は人の憎しみに満ちた顔を見るのが好きだ。こいつからもその顔が見れるとわくわくしていたが、見れないどころか俺をかわいそうなものを見るような眼で見いた。俺は腹が立って
「俺はなぁ、お前みたいな小綺麗な男が大っっっ嫌いなんだよ!」
と言った。歩きながら、レベルの低い捨て台詞を吐いてしまったと少し後悔した。

今日は部室を出て、しばらくしても風丸がついてくる気配はなかった。
俺がわざわざ稲妻駅から約2駅も歩いたこんなところで野宿をしているのはもちろん、雷門や他の代表のやつらに見られたくないからだ。ここは昼間、何をしているところかなんて知らないが、夜は誰もいないし朝も早くに出れば誰にも見つからない。愛媛で影山と別れてからは、ずっとこんなかんじだ。
俺は鬼道を越える、いやもともと俺のほうが上だが、それを認めさせるためにイナズマジャパンに参加してる。影山、あいつは鬼道が最高傑作で、俺は3流だといった。FFIはきっと影山も見ているだろう、そこで鬼道を、俺があいつより上だってことを

「君!そこで何してるんだ」
声と明かりに照らされて体を起こした。ライトをこっちに向けられている。眩しい
「君いくつ?そこでなにしてるの」
警官だ。なんでここに?何か言っている。どうしたらいい、どうなるんだ
考えるより先に体が動いて土管の、逆側から飛び出した。警官が何か叫んでいる。止まれとか、たぶんそんなことだろう。

逃げてどうする 逃げなくてもよかったんじゃないか

ガシャン!
フェンス。穴が開いていない。間違えた、ここじゃない
「くっ…そ…っっ!」
「君!待ちなさい!」
フェンスの向こうは歩道。フェンスの上は有刺鉄線。
「君!」
腕を掴まれた。痛い 強い 逃げれない 捕まった
「どうして逃げたの 逃げなくていいから、大丈夫だから」
まるで子供をあやすように言う。暗くてよく見えないが声は若い、背も高い。蹴飛ばして逃げようかと思ったが顔を見られている。問題を起こしたらどうなるかわからない。頭の中に鬼道の顔が浮かんできた。日本代表。どうしても、どうしてもそれだけは。
「君名前は?ここで何してたの」
黙っていると警官がまた一人やってきて、そいつは俺のバッグを持っている。40半ばくらいだろうか、若い奴に何か言っている。2人で何か話している。若い方はまだ俺の腕を放さない。
どうしたらいいかわからない どうしたらいいかわからない

「不動?」
声のする方に振り向いた。風丸。風丸が フェンスの向こう側に立っている。
「不動 どうしたんだ?何してるんだ」
風丸と目が合う。
「お前なんで」
「不動また家出したのか?」
俺の言葉をさえぎるように風丸が言った。
「君、この子の知り合い?」
「はい」












「今まであそこで野宿してたのか?」
風丸と2人で、駅に続くガード下沿いの道を歩いている。周りは住宅で、人通りは少ない。道の先、ずっと遠くに駅前のネオンが見える。
風丸が警官を上手く言いくるめてくれた。俺は父親と喧嘩して家出をしたことにされ、最後は風丸が俺を家まで送るということになった。とにかくたくさん勝手な設定をつけられた。警官は真面目そうな風丸の言うことをすっかり信じて、ここは立ち入り禁止だからとか、危険だからとか、説教だけして俺たちを帰してくれた。

「なんでお前ここにいるんだよ」
「近くにスポーツショップがあって、そこに用があって」
振り向いた風丸と目が合う。嘘をついているようにはみえなかった。それでも警官相手に嘘を10以上ついて信じ込ませたやつだ。本当かどうか、わからない。
「俺ん家、せまいけどいいか?」
「はあ?」
「え、泊まっていくだろ」
「なんで俺が」
「行くとこ、あるのか?」
「……」
「そんなんじゃ、体壊すぞ 夕飯は?もう食べたか?」

何が目的なんだ

俺が風丸を見ていると、風丸もこっちを見た。歩く速度を落として、俺のすぐ左隣を歩く。
違和感だ 誰かとこんな風に並んで歩くなんて
「…他のメンバーには黙っておくから」
そう言うと風丸はまた俺の少し前を行った。

そうか

「エイリア石ならもう持ってねーぞ」
「え?」
風丸は驚いたように振り向く。
「フッ…あははははははっ!」
「な、なんだよ!」
「い、いやすまんっ…くっ、ははははっ!」
全然すまんなんて思ってないだろ!腹を抱えて笑う風丸を見て、顔が熱くなる。
「て、てめぇ…っ」
「わ わわるい!わるかった、だから蹴らないでくれ…っ」
そう言いながら、風丸はまた俺を見てふふふと静かに笑う。
「っ〜〜くそっ!」
「あ、ああ待てよ!」
風丸は歩きだした俺を慌てて追いかける。俺のすぐ左隣を歩く。


俺はなぜだか風丸を蹴飛ばす気にならなかった。





2010/02/15


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