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ほのぼのか甘で、買い物に行く(スポーツ用品を買いに行くでも何でも、一緒に街へ出る)話

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「この大会が終わったら…」

FFI、決勝前日。
妙に真剣に改まって言うもんだから一瞬、別れを切り出されるのかと。

「デート、してくれるか?」
「は」

心臓が止まりそうになっていたので、風丸のそのセリフに安心し、大きくため息をつく。

「んだよ…そんなことかよ」
「!!ありがとう!」
「え」
「楽しみだ!お前との、ちゃんとした初デート」

OKしたわけじゃない、なんて言えず。

今日に至る。









FFIが終わり日本に戻ってからも、取材やら何やらでしばらくゴタゴタした日が続いていた。それまで短いながらも毎日生活を共にしていた恋人とも会えない日が何日か続き…といっても今日でたったの3日ぶりなのだが。

「ちっ…女子かよ」

ちなみに俺はわくわくなんか断じてしていない。楽しみでもなんでもないから何を着ても同じだとわかっているはずなのだが。身支度を始めてからすでに1時間が経過しようとしていた。そもそも早く起きすぎた。
今日は風丸が新しいシューズが欲しいとかで、電車で2駅行った先の大きめのスポーツショップに行くことになった。日本で二人きりの外出は初めてなので、風丸はずいぶん楽しみにしているようだった。風丸は。





午前、10時31分。

「あ」
「あ!」

30分も早く待ち合わせ場所に着いたのだが、そこにはもうすでに風丸がいた。

「おはよう。ずいぶん早くないか?」
「お前が言うかよ」
「いや、だって…楽しみで」

風丸は照れくさそうに微笑む。

「もしかして、不動も?」
「ちが…っ、俺は…30分前行動をだな…」
「ははっ、そうだな」

傍から見れば、俺達はただの友達同士。だから二人して頬を赤らめているのは不自然だろう。
日本に戻ってからよく思うのだが、場所が変わるだけで新鮮で。いつもよりも何割か増しで鼓動が速い。

二人並んで歩きだす。
俺はいつも通り風丸の右側。初めて二人で外出した時に風丸に「右側にいて」と言われた。こっちじゃないと俺が見にくいからだそうだ。髪切ればいいじゃん、と思ったが、俺が言うと本当に切ってしまいそうだから言わない。
風が吹いて、風丸の髪からふわりといつもと違ういい香りがした。



真っ白で無機質なビル。大きな窓に沢山のテニスラケットとマネキンが並んでいる。サッカー用品は地下らしく、浅い段差の階段を下りて店内に入る。照明は暗めで、広い店内の割に商品は少なく整然としていた。午前中なので客はほとんどいない。

「あった、これだこれ」

入って10秒もしない内に風丸はお目当てのものを見つけたらしい。
有名ブランドのニューモデルのシューズを手に取る。毒キノコの様な色だ。

「なんだよ。買うの決まってんなら一人でよかったじゃん」
「そ、そんなこと言うなよ。それに、色で迷ってるんだ」

俺だったら迷わず黒だけど。
そう思った時、風丸が黒を手に取った。

「やっぱり黒かな」
「いいんじゃね」
「でも雷門のユニフォームに黒って合わないんだよ」
「ハッ、確かに」
「うーん…」

風丸は眉間にしわを寄せ、ずいぶんと真剣な眼差しでディスプレイされたシューズを見つめる。
店内は目移りしてしまうほど大量のシューズが壁に沿ってディスプレイされていた。何故か派手なものほど値段が高い気がする。
店内を一回りしてもとの場所に戻ると、先ほどと同じポーズで考え込む風丸がいた。

「青は?」
「ん?なんで?」
「お前に似合うと思うから」

青に、オレンジのラインが入ったシューズを見ながら言う。単純だが青い髪にオレンジのヘアゴムをする風丸に似てると思った。

「よし!じゃあこれにしよう」
「おいおい」
「俺もこれか黒かなって思ってて。それに不動がそんなこと言ってくれるの、珍しいから」

嬉しそうに笑う風丸を見て、俺まで嬉しくなる。それだけで今日来てよかったと思うなんて、俺も単純だ。
風丸は店員を呼んで軽く試着した後、すぐレジに向かった。





結局目的の買い物はものの30分で終わってしまった。

「よし、帰るか」
「えぇ!?」
「アハハッ、冗談」
「はぁ…不動どこか行きたいところある?」
「特になし」
「じゃあ、せっかくだからいろいろ見てまわろうか。駅前にできたショッピングモール、行ってみよう」
「おー」

今日は風丸に任せると決めていた。
街はまだ本調子ではないようで、人は疎らだ。電車の車内から見えたダークグレーの巨大な要塞のような箱が、風丸のいうショッピングモールだったらしい。中は地下1階から4階までが吹き抜けになっていて、あちこちに階段やエスカレーターが設置されていた。天井から反対側の壁にかけて全面ガラス張りになっていて、屋外にいるのと変わらない明るさだ。正面ゲートから入った俺達の目の前には、無機質なデザインの噴水と、3階まで続く巨大な長いエスカレーターが現れた。
初めて見るそれに驚いて、口をポカンと開けて建物内部を見渡す。
すると横で風丸が小声で「よかった」と呟いた。

長いエスカレーターを上って、そこから順に気になった店をまわる。他にも同じようなことをしているカップルが何組もいて、俺はなんだか居心地が悪かった。男同士でなんて、変な風に思われてないだろうか。普段こんなこと考えないのに、人ごみに紛れると自分たちの異様さが際立つように思える。周りからはただの仲の良い中学生に見えているのだろう。しかし実は恋人同士で。あの島にいた時はそんなこと、意識してなかったのに。

「なあ」
「ん?」
「トイレ行きたい」
「あぁ、確かこっちに」

風丸に誘導されて男子トイレの前に来た。奥まったところにあって、周りには人の気配すらない。風丸は入口の前で立ち止まる。

「ここで待ってるよ。荷物、預かっておこうか」

そっと近づいて風丸の唇にキスをした。髪はいつもと違う匂いがしたが、ここまで近づくと、やっぱりいつもと同じ優しい風丸の匂いがする。

「ん、いいぜ」

固まったままの風丸に声をかけると、風丸はハッとして慌てて周りを見回す。人がいないのは俺が確認済みまのだが。

「ふ、ふど…!嬉しいけど、こういうことは」
「結構我慢したんだぜ」
「え、え?」
「人のいないとこでしてやっただけありがたいと思え」

どうしてもキスがしたくなった。こいつといると時々無性にしたくなる。だから外出なんてしたくなかったんだ。
コツコツと女性の近付いてくる音がして、俺は風丸から離れる。人前で、ってのを風丸が嫌がるのを知っていたから。風丸は困った顔で俺の手を引き男子トイレに入る。再び誰もいないのを確認すると俺を腕で包んで、肩に顔をうずめ大きくため息をついた。

「あー…もう、ホント…我慢できなくなるから」
「じゃあ、我慢しなくてもいいんじゃね」

風丸は少し考えた後、急に背筋を伸ばした。

「いや、今日は帰り際にそっとキスするって決めてたから。それまで我慢する!」
「ナニソレ。言っちゃっていいの」
「じゃあ、忘れてくれ」
「フッ…ま、楽しみにしてるぜ」

トイレを出ようとする俺に風丸が声をかけた。

「あれ不動、トイレは」
「ん?もういい。キスしたかっただけだから」

風丸は頬を赤くした。




















「この後、どうする?」

午後、2時4分。

いくつかの店をまわったが、風丸は生活雑貨やキッチン用品を見るのが好きらしく、フライパンをいくつか手にとって振っていたのがなんだかおかしかった。あと、風丸はペンダントを見つけるとその都度それを手に取って見ていた。少し疑問に思って「お前、こーゆーの普段つけないじゃん」と聞くと風丸は「だから欲しいんだ」と答えた。
だったらどれかプレゼントしてやろうかなんて思ったけど、実はもともと昼飯代くらいしか持って来ていなかったので諦めた。
風丸はずいぶん慎重に選んでいて、俺が飽きて売り場を少し離れても、気づいていないのかついてくる気配はなく。少し、蔑にされている気がして嫌だった。普段はこんなこと思わないのに。やっぱりいつもと違うとこなんて来るもんじゃない。
俺は店の前のベンチでふてくされながら携帯をいじっていた。結局30分程待たされて、もう帰ってやろうかとも思ったけど、慌てて駆け寄ってきてごめんごめんと謝る風丸を見たらイライラはどこかへいってしまった。

昼飯はパスタを食べた。風丸と外食するのはこれで2度目。どうやら俺達は食べ物の趣味は合うらしく、結局二人して同じものを注文した。30分待たせた罰として風丸にデザートを奢らせることになり、一番高いイチゴパフェを頼むと、風丸が小声で「可愛い」と言ったのが少し気に食わなかった。

「風丸クンは?どうしたい?」

イチゴパフェは高さ20cm程あって、上の生クリームとバニラアイスだけで正直甘すぎてうんざりした。苺だけ下からかきだして食べる。

「うーん…映画かボウリングか…それかカラオケかな」
「じゃあカラオケ」
「え、意外」
「個室で二人っきりになれんじゃん」
「!!……歌を歌う以外しちゃいけないんだぞ」
「何想像してんだよ」

ヴーヴー

自分の携帯が鳴っているのに気づいてポケットから取り出す。父親からのメールだった。内容は、これから会えないかというもの。
一方的に3時に駅前に約束させられる。
鬼道ちゃんと久遠監督の計らいで、帝国学園に入学することになった。特待生とかの権利を貰ったので学費などもろもろ免除になったのだが、まだまだいろいろと面倒な手続きがある。一番面倒なのは俺の住まいのことで、父親と母親は俺の知らない間に別居していた。おそらく今日も、どちらで暮らすかという話し合いだろう。

「どうした?」

風丸の楽しそうな顔を見ると、もう帰らなきゃならないなんて言えないし、言いたくない。

「…お父さん?」
「え」

風丸が柔らかい声で言った。

「あぁ…3時に駅前…」
「いいよ。カラオケはまた今度」

風丸はがっかりしただろう。でもそんな素振りを見せないようにしていて。
ありがとう。
俺が今そんなこと言ったら、風丸はどんな顔をするだろう。

「そういえばあれ、つけねえの?」
「ん?」
「ペンダント。買ったんだろ」
「え…あ、あーーー」
「なんだよ。つけて見せろよ」

風丸は鞄から小さな紙袋を出した。こいつがどんなものを買ったのか気になる。それを見られるのが恥ずかしいのか、少し躊躇いながら首にかける。
シルバーの古びた本の形をしたチャームとハートのブラックストーンがついたペンダントだった。

「いいじゃん」
「…本当に?」
「ん?なんだよ。本当本当」

風丸はまた小声で「よかった」と言った。





午後、2時40分。
レストランを出て上ってきた長いエスカレーターを下りる。あと少しで、風丸の楽しみにしてたデートも終わる。それなのに風丸の口数は少ない。

「駅前じゃ帰り際のキス、できねえな」

振りむいてからかうように言ってみる。風丸は少し驚いた顔をしてから苦笑して「そうだな」と答えた。
長いエスカレーターが終わる。駅がどんどん近づく。

「不動、こっち」

風丸はそう言って俺の手首を掴み、最初に来たトイレに入る。幸運なことに、またしても誰もいない。

「なに?またトイレでキス?」
「すまん」
「いいって」

目を瞑ってどちらともなく唇を重ねる。すると首の辺りに何か違和感を感じた。
目を開けるとそこにはいつもより緊張した面持ちの風丸がいた。視線を下ろして自分の胸を見ると、そこには例のペンダントがあった。そして風丸の首にはそれがない。

「俺のだったの」
「うん。正直さっき、ダサいとか言われたらどうしようかと」
「あははっ」

シルバーのチェーンは、風丸の体温で暖かかった。

「…サンキュ」

すごくすごく小声で言う。

「俺の方こそ。今日はありがとう」
「……トイレじゃムードでねえなあ」
「ホントだな」

二人で笑い合った。














午後、3時26分。
俺はさっきまで風丸といたショッピングモール内の喫茶店に、父親といる。見栄をはって父親と同じコーヒーを頼んだが、俺にはまだ苦すぎた。デザートを勧められたが、気を利かせて一番安いバニラアイスを頼んだ。

「明王それ、どうしたんだ」
「え」

父親の視線は俺のペンダントに向けられていた。俺は冷静を装いながら、それをTシャツのなかにしまう。

「彼女でも出来たのか?」

父親は笑いながら、からかうように言った。

「彼氏ならできたけど」

意外とすんなり言えた。父親はバカみたいに真面目な性格だから、俺の言葉に目を丸くしている。

「は…ははっ、明王もそんな冗談言うんだな」

本当に、俺達は他人からしたら冗談みたいな関係だ。でも

「まあね」

そっと、Tシャツの中にあるチャームに触れる。
確かに、ここにある。

「それで……父さんと、母さん。また、一緒に暮らすことになった」
「…いいんじゃね」

コーヒーに4杯目の砂糖を入れる。
いつか父親に風丸を紹介しなきゃな、なんて
バカみたいなことを不意に思った。
END
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明王のお父さん出しちゃった(爆)

5月になりましたね。佐久間です。
街へ出る二人というので書き始めたら止まらなくなって、収拾つかなくなって…笑
途中最終回があって帝国明王が公式になったので後半書き変えてみたらお父さん登場。明王の家族ネタはいくつか思いついてたんですが今回自然に(?)入れることができて嬉しいです!
ちなみに風丸さんがプレゼントしたペンダントは、数年前某俳優さんがデザインして限定で販売してたやつが軽くモデルになってます。当時すごく欲かったんですが高くて買えなくて…ってどうでもいいですね笑

リクエストありがとうございます!
2011/05/06
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