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風不で久遠監督と不動の仲を疑う風丸

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恋人どうしになればぐっと距離が近くなるものだと思っていたが、不動と俺の距離はチームメイトだった時と大して変わっていない。もっとワガママを言ったり甘えてきて欲しいのだが、俺はまだ不動に何か恋人らしい事を要求されたことがなかった。それどころか不動は俺の部屋にすら来てはくれない。会いに行くのはいつも俺から。不動の性格上それは仕方のない事だ、と言い聞かせる、そんな日が続いていた。


コンコン
「不動、俺」


今日、不動は部屋にいなかった。
付き合いだしてからは不動はいつも部屋にいて、俺が来てくれるのを待っていたのに。
「いないのか」
誰もいない部屋に話しかける。
ジャージが無造作にベッドに置かれていたため、宿舎内にはいるのだろう。南の島でも夜は冷える。
ベッドに横になってみた。いつも不動がこのベットで眠っている。そう思うと妙に緊張した。
「早く…」
早く帰ってこいよ。

一緒に過ごす時間はどんどん減っていく。




不動が部屋に戻ってきたのは、合宿所の消灯時間5分前だった。
「風丸クン」
「ん…」
いつの間にか眠ってしまっていた。俺を見て不動は呆れたように笑う。
「どこ行ってたんだ?」
「…なんで」
「え」
「俺がどこ行ってよーと俺の勝手じゃん」
「そ」
そんな。と言おうとして止めた。
俺達は両想いのはずなのに、なんだか納得いかない。
「ハイハイ。消灯時間ですよ、風丸クン」
「そんな…まだお前と何も」
「何も、ってなに?何するつもりだったわけ?」
「あ…いや…」
「一緒に寝る?」
「えぇ!?」
「ウソ」
「あ、あぁ…」
「がっかりかぁ?」
「…いや」
否定の言葉に不動は目を丸くした。これはふてくされる前兆。
その前に俺は一言付け加えた。
「不動と一緒のベッドで寝るなんて…きっと緊張して眠れない」
不動はまた目を丸くした。しかし今度は頬が赤い。これは呆れたふりをする前兆。
「っ…たく、お前ってバカみたいに正直だよな」
不動はテレながら笑った。
可愛いよ。という言葉は不動が怒るので飲み込む。
俺がゆっくり顔を近づけると不動はすっと目を閉じた。

チュ

わざと恥ずかしい効果音をたてて唇を離す。
「あ…最後に、いいか?」
「なに」
「…どこ行ってたんだ?」
「……道也んとこ」


……ミチヤ?


不動の言う『ミチヤ』が久遠監督のことだと気づいたのは一人部屋に戻ってからだった。
不動が久遠監督の所に、呼ばれて行ったのか自分から行ったのか、そこで何をしているのか。そしてなにより気になるのが
「なんで名前で…っ」
嫉妬せずにはいられなかった。










「不動」

今日も不動はいない。これで3日連続だ。
もちろん不動の居場所に心当たりがない訳ではない。
「………」

不動は最後には俺を選んでくれる、はずだ。

それに相手は久遠監督。
いくら不動が可愛いからといっても、さすがに娘と同い年の少年に手を出したりはしないだろう。

二人は俺が不動に興味をもつ前から、親密なのは薄々わかっていた。久遠監督のほうは知らないが、少なくとも不動は監督を慕っている。
最初からわかっていた。不動は自分から監督の部屋に行っている。それも3日連続で。

「……くそっ」

不動を他の誰よりも愛している自信はある。でも、誰よりも愛されているかどうかは…。

『付き合うって何?何すんの』
告白した時に不動に言われたセリフだ。告白して、恋人同士になった。だが俺には何の権利もない。不動がどこで過ごすか、誰と過ごすか、俺に拘束する権利などない。
俺はただ、不動と一緒にいたかった。しかしそれは不動の時間を奪っていただけなのかもしれない。俺と過ごしている間、不動は何を考えていたのだろう。誰か、俺以外の誰かと一緒に過ごしたかったのかもしれない。俺が少しでも不動と一緒にいたいと思っているように。












次の日。
二階と違って、一階の廊下はずいぶんと静かだ。
大きく深呼吸する。不動は風呂に入っている時間。
コンコン
「風丸です」
扉の向こうは無音だ。
「入れ」
久遠監督の低い声が響いた。

カチャ
軽い音を立てて、扉を開く。
この部屋には、初めて入った。大きさは俺達の部屋より少し広い程度で、大きなクローゼットとソファが目につく。
監督は高そうな椅子に腰をかけて、机で書類に目を通している。
机の前に立って、また軽く深呼吸をした。圧迫されるような空気に、息が詰まりそうだ。俺が勝手に緊張しているだけなんだろうが。

「なんだ」
「監督」


「監督は不動が好きですか」


久遠監督は読んでいた書類を下して俺を見た。

「どういう意味だ」
「そのままの意味です」
「…あぁ。不動は日本代」
「選手としてでなく!…れ、恋愛の対象として」

久遠監督は大して驚きもせず、少し考える素振りを見せた。

「意外だな」
「え」
「お前だったのか。不動の恋人というのは」
「え、あ」
不動が恋人がいることを監督に話していたとは意外だった。俺の話を、したのだろうか。

「違うのか?」
「いえ…そうです…」
一応…。

「不動のどこが好きなんだ」
「え」

不動のどこが好きなのか。不動が気になりだしたとき散々悩んだ。
わがままで、素直じゃなくて、口も悪いし、扱いずらい。
それなのに不動が気になってしょうがない。今は、好きでしょうがない。

「わかりません。でも」


「俺は誰よりも不動が好きです!」


「だから…だから監督に、不動を」
幸せにして欲しい、と言いに来たはずだった。不動が久遠監督を選んだなら、俺は身を引こうと。不動は好きな人と幸せになって欲しい。せめてその手伝いが出来たらと思った。
でも

「不動を渡したくありません」

精一杯、凄味をきかせて言った。不動は渡さない。

「もし監督が、不動のことちゃんと」
「風丸」
久遠監督はフーッと、深くため息をついた。

「…なんですか」
「…クローゼットを開けてみろ」
「は」
「いいから」
俺はしぶしぶソファの後ろにあるクローゼットに足を向けた。
何を企んでいるんだ。
久遠監督はやれやれ、と言った表情で俺を見ている。それが俺には余裕の表情に見えて、ますます苛立った。
カチャ
クローゼットの中には当たり前だが見覚えのある監督のコートやジャケットがいくつか掛かっていた。
コートが少し揺れた。不思議に思って視線を下に落とす。
その先にあったものを視界に捉えて、俺は思わず固まった。

「ふ、どう!」

クローゼットの下には、耳まで真っ赤にした不動が体育座りで丸まっていた。

「ったく…なんなんだよてめえは…」
「き…なん…」
聞かれてた。そう理解した瞬間、沸き立つくらいに一気に顔が熱くなった。

「なななんでこんなところに!」
「てめえこそこんなとこに来て何言ってんだよ!バカッ!」
「な…っそれはお前が」

「おい」

俺達の照れ隠しを遮って、久遠監督が言った。

「風丸、勘違いしなくても、お前達は両思いだ」

「え」「は」

「よかったな」

頭の中で久遠監督のセリフを何度もリピートしてみる。
不動の方を向くと、目が合ったがすぐに逸らされてしまった。俺もきっと、今の不動と同じように、真っ赤な顔をしているんだろうな。

「チッ…勘違いしてんじゃねえよ…俺がこのおっさんと、どうにかなってるとでも思ってたワケ?」

久遠監督は『おっさん』と言われたことに対してだろうか、少し眉を顰めた。
しかしすぐにいつもの表情になると、こう言った。

「不動はお前のことが好きなんだが、お前が自分の事を好きというのが信じられなくて」
「は!?そんなこと言ってねえだろ!」
「どうしたらいいかわからない」
「言ってねえっ!」
「私にはそう聞こえたが」
「ぅ…っ!」

「だああ!帰る!」
バンッとクローゼットの扉を乱暴に閉めて、不動は部屋のドアに向かう。
「あ、不動」
追いかける、前に。
「監督あの…すみませんでした!」
久遠監督が少し笑ったような、気がした。
「練習に支障をきたさないように」
「はい」




「不動」
廊下で俺を待っていた不動の頬はまだ赤い。

「信じてくれたか?俺が、お前のこと好きなこと」
「あれはっ……あー…ああ。わかったよ」
「うん」
「…俺が監督と浮気してると思ったワケ?」
「うん。ごめん」
「謝ることじゃねえよ。真面目だねえ風丸クンは」

「じゃあ俺から一つ不動にお願い」
「ん」
「とりあえず監督のこと『道也』って呼ぶのなし!」
「別にいいだろそんくらい」
「じゃあ俺のことも名前で呼ぶこと」
「はあ?…わがままだな一郎太は」
「!!」
「やっぱ長くて言いづらい。却下」
「…明王、今日ずっと顔赤いぞ」
「うるせー」

END
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お久しぶりです…あああ1カ月ぶり泣
前からずっと書きたかった風丸vs久遠。でも結局vsにはならなかった笑
久不はよく読むんですが、結構な率で『道也』呼びですよね。ということで名前ネタでした。
なんだかいろいろと書き足りない!そして久遠監督扱いずらい笑

リクエストありがとうございます!
2011/03/06
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