※高校生で付き合ってる設定です









『はぁ?ムリムリバイト入れたから』
『え、な…なんで』
『それはこっちのセリフ』
『え』
『なんで24日なわけ?23でも26でも、同じ1日じゃん』
『な、なんでってクリスマスイブじゃないか!』
『…あー世界中のカップルがセックスする日ね』
『なっ…!』
『あ、風丸くんも俺としたいんだ?だったらまた今度たっぷりさせてやるから』
『っもういい!!』



そう言って携帯を叩きつけたのが2日前になる。それ以来不動と連絡を取っていないまま、ついに今日、クリスマスイブという日を迎えた。






くりすますいぶの話






「風丸!来いっ!」
終業式を終えて、結局俺は河川敷で円堂達とサッカーをしている。
「どうした風丸ー!シュートの威力落ちてるぞー」

なんでこんなことに…

「はぁ…」


高校に入ってすぐ、不動は近所のレストランでアルバイトを始めた。毎週土曜日は必ずシフトを入れていたから、クリスマスは最初から諦めていたのだが…。まさかイブまで。俺は当然予定を空けてくれているものだと思って楽しみにしていたのに。

確かにクリスマスは俺と不動にとっては特別な時間でも何でもない。いつ会っても不動は不動だし、俺は俺。今日だからどう、ということなど何もないのだけれど
でも今日は特別でなくても特別なことが出来る日なのだ。イルミネーションを見たりプレゼントを贈ったりケーキを食べたり。

だが一人ではどうしようもない。

「はぁ…」
また白い息が吐き出されて消えた。






太陽はあっという間に沈んで普段はただ暗く静かな住宅街もイルミネーションでキラキラと飾りつけられていた。俺はそれに大した感想も持てないまま帰宅した。
「会いたい…」
ベッドの上で天井に向かって言う。時計は午後7時を過ぎていた。

きっと今が一番忙しいんだろうな

見せてもらったこともない不動の働く姿を想像する。あの愛想のなさではホールは無理だろうな…なんて言ったら怒るだろうか。
自然と笑みがこぼれた。
ああもう、やっぱり会いたい。

と、バッグの中から鈍いバイブ音が聞こえた。長さからしてメールだろう。何の期待もせず携帯を開くと、不動からだった。
うわっ!
と、嬉しくなってボタンを連打した。

『スゲー忙しい』

文面はこれだけだった。ああこれだけでも嬉しい。不動は用件がないと自分からメールを送ってこないのだ。俺を気づかってくれたのか。
不動も俺のことを想ってくれたのかも、なんて。

『好き』

返信は『バーカ』だろうな、とニヤニヤしながらメールを送信した。
1分も経たない内に返信がきた。

『バーカ』

じわじわと胸が暖かくなっていく。

『会いたい』

めいっぱいの気持ちを込めながらメールを送信した。
しかし30分ほどしても不動からの返事はこなかった。
忙しいって言ってたもんな…
「はぁ…」
今日何度目かのため息をついた。
「やっぱりだめだ!」
怒られるかもしれないけど、やっぱり会いに行こう。
思いたった俺は気づけば冷たい空気の中を走っていた。
















「不動」

「…は?」
不動がレストランの裏口から出てきたのはちょうど夜の10時だった。やっと会えた、と、俺の中では感動の再会ぐらいの心境だ。不動は驚いた後に呆れた、というような表情をみせた。
「お疲れ様」
「まじでバカだなお前」
そう言うと左手が何か暖かいものに触れた。驚くことに不動が俺の手を握っていたのだ。
「え」
外で不動と手を握ったことなんてなかったし、ましてや不動から手を握ってくることなんて初めてだったし、これからもないだろう、と思っていたので状況を飲み込むまでにずいぶん時間がかかった。不動の手はずいぶん暖かくて柔らかい。いつもは俺の手のほうが暖かいのに。
「ふ、ふど」
動揺と嬉しさでうろたえているとあっさりと不動は手を放した。
「さみー」
そう言って歩き出す。両手はもうポケットの中にしまわれていた。
慌てて不動の隣に行く。

「不動」
「ん」
「手繋ぎたい」
「やだ」
「寒いんだろ、手…」
「お前の手冷たいもん」
「え!」

しまった、と思った。

「じゃあ」
「ん」
「これ」

そう言って不動に包みを渡した。本当はもっとかっこよく渡したかったのだが。
黒い包みに赤いリボンがついた包み、いわゆるクリスマスプレゼントというやつだ。
不動は黙ったままガサガサと袋を開けた。
中身は黒い皮の手袋。高校生の俺が、かなり奮発して買ったものだ。

「それ、してほしい」
「………」

不動の手はいつも冷たくて、外出時は不動はずっとポケットに手を入れていた。きっとすごく冷えきっているんだろうな、と。暖めてやりたくてしょうがなくて、でも手を繋ぐことができないなら、やっぱりこれしかないと思った。

「ふっ」
「え」
「はははっ…あーあ」

不動は手袋を見て笑った。なにがおかしいんだ、と少し不安になる。
すると不動がバックのなかから小さめの紙袋を出した。

「ん。俺からも」
「え!あ…ありがとう」

丁寧に紙袋のテープをはずして中のものを取り出す。中身は手袋だった。皮製で、色は黒。
俺が不動に贈ったものと、違うものだが、すごく似ていた。

「…考えることは同じみてぇだな」

そう言って不動は俺の贈った手袋をつけた。よかった。やっぱり、よく似合う。

俺が外出する度に手を繋ぎたがるのがうっとおしかったから。というのが、不動が手袋を買った理由らしい。
つまりこの手袋は不動の手の代わりか。

「大切にするよ」
「……おー…」



確かに普段と変わらない24時間。だけど俺はきっと確認したいんだと思う。
俺達は恋人同士だって。
クリスマスイブという時間を、俺の為に使ってほしい。






「不動明日もバイト?」
「おう」
「明日も来ていいか?」
「…勝手にすれば」

住宅街のイルミネーションがやけに綺麗にみえたのは、きっと不動のおかげだろう。

END

2010/12/26

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