帝国は居心地がいい




fair




携帯が鳴る。
鬼道有人
期待通りの表示に胸が弾んだ。

「もしもし」
『今どこだ?』
「ガッコー」
『…そんなことはわかっている。学校のどこだ?』
「俺の秘密の場所」
『……何?』
「何の用?」
『会いたい』

鬼道は影山がいなくなってから、変わった。いや、影山がいなくなってからか、俺と付き合いだしてからか。

「…んじゃあ見つけ出してみろよ」
『…望むところだ』




俺は帝国のこの非常階段がお気に入りだった。立ち入り禁止になっているだけあって誰も来ないし、隣は公園に面していて静かだ。校舎の設計上日が当らなく、金属の階段は夏でも冷たくって気持ちいい。

FFIが終わってから俺は久遠監督の勧めでこの帝国学園に編入した。鬼道が久遠に頼んでこうなったってのは、あいつが俺に秘密にしているから秘密だ。
真帝国のこともあったため冷たい視線も感じるが、そんなのは慣れっこだし、大概の生徒は鬼道が俺に良くしてくれているのを見て良くしてくれる。
何より、ここには鬼道がいる。まぁそんなこと、決して口に出したりしないが。



ガチャ
背後の重い防火扉が開く音。

「楽勝、というところか」

鬼道がニッと笑う。
「チッ」
舌打ちをしてみるが口角は上がってしまう。時計は見てないが恐らく電話を切ってから5分も経っていないだろう。もっと俺のこと探し回りゃよかったのに。

「はえーよ…」
「立ち入り禁止の場所など、限られているからな」

そう言って俺の横に腰かけた。なんで俺が立ち入り禁止の場所にいると践んだのか、聞いてもよかったがなんとなく予想がつくのでやめた。

「それが昼食か」
俺の膝の上に乗っている菓子パンを見て言う。
「おう。鬼道ちゃんメシは?」
「もう済んだ。そんなもので、大丈夫なのか」
「なにが」
「栄養」
「へーき」
「お前一人の体じゃないんだ」
「…ハッ、俺の体だ、ってか?」
「違う。帝国サッカー部の体だ」
(違うって…そんなはっきり言うかね)


鬼道は俺の隣で何をするでもなくただじっとしていた。
疲れてんな
何の確証もないのにそう思った。昼食を食べたというのも嘘だろう。目を見ればわかるんだけど、生憎、チャームポイントのゴーグルが邪魔して見えない。

(これ食い終わったらキスの一つでもしてやるかな)

「なにをニヤついている」
「ニヤついてなんかない」
「じゃあこっちを見ろ」
緩んでいた頬をきゅっとしめて振り向くと唇に軽いキスを落とされた。

「…ちくしょう」
「なにがだ?」
そう言って鬼道は笑った。
(俺がキスするつもりだったのに!)

後だしになるのは癪だったけどこの場合仕方ない。

「っ…ん」
正直性欲を持ち合わせていなかったもんで舌を絡めても暑苦しいだけだった。それでも口内をゆっくりかきまわされると頭ん中が揺れた。

熱い




ガタン!
と、大きな音が響いて思わず二人して動きを止めた。
渋々唇を離して音源を探る。

上の階からだった。上の踊り場に人がいる。いつの間にか繋いでいた手を鬼道はゆっくり離した。
わかってる。わかってるけどさ。
胸の辺りが痛くなった。あーもう、だいぶ重症だわ、俺。

足音がするが階段を下りるわけでも、上るわけでもなさそうだ。その場で足踏みでもしているような音。

「ま、待てっ」
聞きなれた声に俺と鬼道は顔を見合せた。この声は我が帝国の正ゴールキーパー、源田幸次郎の声だ。源田め、邪魔しやがって。
「待て佐久間っ」
ガンガン
と革靴が金属を叩く音。
「や、めろっ…ここは学校だ、ぞ…」
ちゅっ、という水音が聞こえて思わず目を丸くした。あいつら学校でなにやってんだよ、って人のこと言えねーか。
つか、結構音響くな。気を付けねーと。

「っ…やぁ…っ!」
源田の声がどんどん色っぽくなっていって、俺は口を押さえて笑いをこらえた。源田の喘ぎ声とか…面白すぎだろ。
源田を襲っているであろう佐久間の声はしない。佐久間がしゃべらない時はキレている時だった。真帝国の時何度かこのキレた佐久間を見たことがあるが、無表情なまま目をギラギラさせて、植えた獣のよう、とはあんな状態を言うんだろーなって思った。鈍感な源田でも危険を察知して怯えていたっけか。

と、ふと隣の鬼道を見ると、鬼道は顔を真っ赤にして固まっていた。
(なんだこの状況!)
「くっ」
もうだめだこんなん我慢できねえ



「もう不動と話すな」


普段より幾分も低い佐久間の声が響いた。
(は、俺?)

「…ふ、不動?」
「気づけよこの鈍感が!不動に嫉妬してるんだ!」
佐久間の怒鳴り声に俺も鬼道も体を固まらせた。恐らく源田もだろう。


しばらく沈黙が続いた。変に緊迫した空気に身動き出来なくって、鬼道も真剣な表情をして何か考え込んでいる。このタイミングで昼休み終了のチャイムが鳴った。

「…すまない、今のは忘れてくれ」

無理矢理優しく加工したであろう佐久間の声。ガンガンと耳に痛い金属音、重い扉の閉まる音。
しばらくして源田も校舎に入っていった。


「…あーあ、全然飯食えなかった」
「…そうだな」
そう言って鬼道も行ってしまった。佐久間と源田のことなんて知ったこっちゃねーんだけど。なんか変に奥がぐるぐるかき回されてるみたいだった。


(…鬼道は源田に嫉妬したかな)



授業開始のチャイムが鳴った。



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その日の練習後、部室にはいつも通りの光景があった。


「お疲れさまでしたー」
俺、鬼道、佐久間、源田。
結局、4人になってしまった。
そう言えば最近は必ずこのメンバーになる。理由を考えれば至極当然なもので、部室の鍵を持っているのは源田と鬼道だからだ。源田は部室の鍵を閉めるため、鬼道はキャプテンとして部員が全員帰るのを待ち、佐久間は恋人と帰宅したいがために部室に残っていた。俺も…まあ、佐久間と同じ理由。

ベンチに寝転がって、向かいの椅子に座って明日のメニューを組む鬼道を見る。後ろから佐久間がメニューを覗いて、2人で話を進める。源田は俺のすぐ後ろで着替えている。

アホ佐久間め、お前が鬼道とばっかり話すから、源田が俺に話しかけてくんだよ。

だが昼間のこともあってか、源田は黙ったまま着替えている。



「突然だが」

鬼道が、メニューを書きながら言った。


「俺は不動が好きだ」


「「「えっ!」」」

俺を含めた3人が同時に声を上げた。鬼道はそんなこと気にも留めていないようで、続ける。

「不動はどうだ」

「は!?」
どうだ?どうだ、って、そんなんなんで

佐久間と源田の視線が痛い。緊張なんて、全くしない性質なんだけど、顔は燃えてるみてえに熱いし、変な汗も出てきた。
鬼道は真っすぐ俺を見ている。

「俺のことが好きか」

(言えって!?この2人の前で!?)








「……はい」

佐久間はぽかんとした顔で俺達を見ている。源田は…きっと顔を真っ赤にしていることだろう。鬼道は満足したようで、フッと笑うと立ちあがった。
「源田、戸締りを頼む。明王、帰るぞ」



呆気にとられている2人を残して、顔の紅潮も消えないままに部室を出る。

ただでさえ薄暗い校舎は、夜の静かな空気に包まれていた。

「んなんだよ…」
「ん?」
「なんだったんだよ今の…」

怒る気力もなかった。なんか、搾り取られた感じ。

「いや、あいつ等の関係を、俺達だけ知っているのはフェアじゃないと思ってな」
「はい?」

鬼道は携帯を出し迎えの車を呼んだ。

「それだけ?」
「ああ」

だったら『俺達付き合ってます』でいいじゃねえかよ!

「それと」
「?」
「俺も最近お前と源田は仲が良すぎると思っていた」




「仕返しかよ!」


帝国は、居心地がいい。



END


2010/08/03

1周年記念でリクしていただいた、「帝国メンバーで佐久源+鬼不」でした。
リクしていただいてから、なんと、丸々1カ月経ってしまいまして…すみません!すみませんすみませんごめんなさいっ!!!泣
きっと、リクしていただいた方も忘れちゃってるよな…ああああ!


まあそんなこんなで佐久源+鬼不。どっちも文では初めてだったんで、
書き足りない!
あと、鬼不にスポット当てすぎて、佐久源がおまけ程度になってしまいました…佐久源メインのを想像されてたらごめんなさい…あ、あと勝手に全員帝国に戻しちゃってすみません。私の理想です。
つかこの4人揃ったら、CP無限ですね笑。
勝手なイメージで、佐久源も鬼不も、普段人前じゃイチャつかないんで、学校じゃー佐久+鬼、源+不になるんじゃないかと。
おもしろかった!また書きたいです!

リクエストありがとうございましたー!こちらリクしていただいた方のみお持ち帰り可能です!

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