ランニングの帰りに、円堂を見つけた。

宿舎は目の前だと言うのに、全く気づいていないのか、わざとなのか素通りして、さらには俺のことまで素通りしていく。アホみたいに口を開けて、真上を向いたまま。

なんだありゃ

前からボケたやつだとは思ってたけど、ついに壊れたかと思って思わず振り向いて見てた。


その先は階段。
「っおい!」
「うわああ!?」






その先は、






「なにやってんだお前は!?前向いて歩くこともできねぇのか!!」
「はー…ありがとう不動!助かった!」
『助かった』か。
なんだか、初めて聞いた言葉の様に思えた。

「………ハァ…あーはいはい…キャプテン様に怪我でもされちゃ、困るからな」
そう言うと円堂は何か煮え切らないようで、首をかしげた。
「…それだけ?」

俺はこいつが苦手だ。

「は?他に何があんだよ?」
「うーん、そうか…そうだな」

俺はこいつが苦手だ。
サッカーに対して純粋で、…純粋で。(純粋以外の綺麗な言葉を俺は知らないようだ)
チームメイトからの信頼も、どうやったんだ、ってくらい厚い。そーゆーとこはマジでソンケーに値するのだが。
一対一の時、こいつは表情を変える。一枚隔てたような、違和感を感じる。俺だけかもしれないが。


「あ!それじゃあさ!」
こっちこっちと言いながら俺の腕を引き、先ほど落ちそうになった階段を一段飛ばしで下りていく。こーゆー強引なところも苦手だ。


砂浜にどかっと座る。大人しく隣に座った。というか、腕を放してくれないのだ。座るしかない。

「空がさ、日本の空とは違うなって思って」
そういって円堂は上を向く。俺も見てみたが、日本の空を見上げた記憶がなかった。

「そーか?」
「そうだよ!空の高さが違う!」
夜の空は黒いばっかでつまらない。天文とかには、興味無いし。

「わかんねー、だから腕放せよ」
言ったとたんボフッという柔らかい音がたった。
俺は空を見上げたまま。砂はふかっとして気持ちよかったけど、円堂に肩を押さえつけられたこの状態は気持ちいいとは言えない。

「…邪魔。空が見えねぇ」
必死に、動揺を隠した。円堂の瞳はバックで光る星なんかよりギラギラしてて、少し怖かった。腕力じゃ圧倒的に不利だし。

「そうか!そうだな」
そう言うと円堂は俺を解放した。何もなかったかのように涼しい顔をして起き上がる。後頭部に付いた砂をはらっていると、再び円堂に押し倒された。

「な、なんなんだよ」
「俺…やっぱりどうしたらいいかわからない」
円堂はうつむいた。だがしっかりと俺に馬乗りになっている。

「不動…」
「退け」
「不動」
「退け」

俺はただただ連呼した。円堂の肩が震える。何かが起こりそうな予感に、怖くなった。
「退けよ何がしてぇんだお前は!」


「好きだああーーーーーー!!!!」

「へ!?」


円堂は、高い空に向かって叫んだ。宿舎にまで聞こえそうなほどの大声で。
「好きだ!好きなんだ!不動っ!」
全く展開を飲み込めていない俺を円堂は無理やり抱きしめた。抱きしめたまま、動かなくなる。

「わ…わかったから放せっ」
抵抗してみるが全く動かない。むしろ体が砂に埋まっていきそうだ。

「俺不動のことスゲー好きだ、なのに不動は俺のこと避けるし、どうしたらいいかわかんなくなって」

避けているつもりはなかったのだが。

「みんなに聞いても、みんなばらばらのこと言うし
で、やっぱり自分のしたいようにするのが一番だって
鬼道が」

あいつ、適当なこと言いやがって。

「…お前は俺を押し倒したかったのか」
「二人きりになって、不動にたくさん触りたかった」

両手で顔を包まれた。円堂の手が冷たく感じる。俺の顔が熱いのかも。円堂の手は大人のと変わらないくらい大きくて分厚い。でも俺の顔を覗きこむ瞳はまさに少年のそれだった。

「ありがとう
さっき、助けてくれて
不動が助けてくれなかったら俺死んでたかもしれない」

『ありがとう』という単語が、俺の内側をおかしくさせた。変に痛んで、それなのにどこか心地よい。
というか、お前はどこから落ちても死ななそうだが。

「ふん、俺がいなかったら、この島に来ることさえ出来なかっただろーよ」
「うん…だからさ、これってスゲー偶然なんだよな」
おいおい。
やめろよそーゆーくせぇセリフ。バカバカしい。

「ありがとな、不動」
それもやめろ。

「不動がサッカーをしててよかった!」
騙されるなよ、俺。

「ありがとう!」

考えてることとは裏腹に、俺の胸は大ダメージを受けた。スゲー苦しいし、痛いし、ドクドクうるさいし。
円堂がにかっと笑うとまた胸がぎゅうっと絞まった。
嘘だ嘘だ。騙されねぇぞ俺は。






「星の数もすごいよなー」
「おい、前向いて歩け。次は助けてやんねーぞ」
「あ、じゃあさ」

手を繋がされた。

「っ〜〜〜!や、やめろ!」

どんなに振っても、全く外れない。

「不動とまた二人きりになれますようにいー!」
「う、うるせー!叫ぶなっ!」

苦手だ。
絶対に、二人きりになんてなってたまるか。
円堂が笑った。警戒の意味を込めて俺は睨み返したが、もちろんこいつには効かなかった。



END


2010/08/17


1周年記念でリクエストいただきました円不でした。
お待たせして大変大変申し訳ございませんでした…っっっ!

初円不。
2期で円堂が連発させて使っていた必殺技、『星空トーク』を明王に対して炸裂さしてみました。3期じゃやんなくなっちゃいましたねーキャラバンの上での語り合い。
最近のアニメでの明王の驚いた表情とか…ものすごく円不だなあと思って見てます。
騙されないぞ騙されないぞ って思いながらしっかり落されちゃう不動。可愛い。
円堂の大きな手で頭撫でさせたかった…。それが心残り!

読んでくださってありがとうございます!こちらリクエストくださった方のみお持ち帰り可です!

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