イライラする




実証




ここは食堂。円堂が何か言った。今は誰とも話したくない。いや、誰ともというのは嘘だ。あいつとなら話したい。…今のも嘘だ。あいつと話したい。すごく。
反応の無い俺に再び円堂が声をかけた。内容は聞き取れたが脳が即座に消却してしまった。すまんな円堂、今の俺はどうかしてるんだ。脳は俺の口に命令した。
こう言え。
「すまん、今日はもう休みたい」
部屋に行こうと立ち上がる。彼のいないここにもう用はなかった。


一人で部屋に籠るのはよくない。考え込んでしまって、結局答えが出ないというオチが多い。わかってはいるのだが、
「風丸」
求めていた声が突然背後から襲ってきた。名前まで呼ばれて俺の心臓がおとなしくしてるはずない。振り向くと、イライラの元凶であり今の俺の脳内を占拠している彼が立っていた。
「フル、カブさん?だっけ?あの人、どこにいるか知らねぇ?」
「あ、ふ…古株さんならいつもジムシツに、入って、玄関入ってすぐ右の部屋、に」
「了解。入って右ね」
彼は答えだけ持って階段を降りていった。


俺はイライラしていた。
心臓が正常に動作しなくなったのだ。それもあいつの、不動の前でだけ。


それは恋なのではないか
という物騒な考えが浮かんだ。
そんなはずはない!

そんなはずがあるか!誰があんなやつ好きになるか!輪を乱して口を開けば嫌みばかり!さらには男だぞわかってるのか!?

じゃあさっきの反応は何だ?わたわたして。今だって心臓、うるさいじゃないか。俺は不動のこと、気になって仕方ないよ。さっきだって、頼りにされて、嬉しい。

嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!

「嘘だ…っ!」

確かめるべきだ。
証明してやる。
不動のことなんて何とも思ってない。これは恋なんかではないと。

あとはもう勢いだ。




「あ?んだよ、めずらしいな」
「俺とキスしないか」

自分でもびっくりするほどすんなりとセリフは出た。内心は迷っていたのだが、不動の部屋の扉をノックした瞬間、吹っ切れた。
もうこいつのことをだらだら考えて眠れないとか、そういうのはもううんざりだった。
これは俺の安眠のためなのだ。

「…あ?」
「俺、お前のこと好きかもしれないんだ」

「……マジで言ってんの?ありえねぇ」
「俺もそう思う」
「ハッ…失礼なやつ」
「キスすれば、はっきりするはずだ。俺がお前のこと好きかどうか…だから」

「いいぜ」
「……え」
「協力してやるよ。キスだろ?」
不動は俺のジャージを引っ張った。一歩前に出るとグンと不動の顔が近くなった。

少しの沈黙の後、不動が目を細めてゆっくり、ささやくように言った。
「キスんとき目あける派なのかよ?」


ヤバい
ヤバいヤバい
これは

こんな


不動の肩をつかんだ。途端
「だーれがするかよ!」
気づくと廊下に投げ出されていた。尻と腹が痛い。
「一人でもやもやしてろバーカ」
バン!と、扉が閉まった。

ヤバい
こんな
こんなの完全だ


完全に好きじゃないかよ


ドクンドクンと左胸のあたりがうるさい。頭の中では先程の映像が何度もリプレイされている。

ほらな、やっぱり
悲劇だこんなの
キスしたかったな
苦労するぞ…あんなやつ好きになりやがって




「なんだ?風丸、なんで廊下に座ってんだ?」


「……なんでだろうな」



END

2010/08/02
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