親睦パーティーとは名ばかりで、ナイツオブクィーンのメンバーらしき奴らは遠巻きから俺達の様子を伺うばかり。招待状を送ってきた張本人であろうキャプテンのエドガーも、久遠を口説き落とそうとするばかりだ。
(来た意味あるのか…?)
親睦パーティーの件
俺達日本代表のメンバーは、最初からご馳走目当てだったメンバーも多かったからか、こうやって一ヶ所に固まって談笑中。俺達以外は皆イギリス人なわけだから、こうなるのも仕方ないかとは思う。
そんな中、遠くのテーブルに見慣れた特徴のある髪型。
「不動」
くるんと振り向いた不動はいつもと違った。真っ白な肌は頬を中心に赤くなり、大きな瞳はトロンととろけている。が、しっかり俺のことを睨んでいる。
「…どうした?顔、真っ赤…」
「ン?べつに」
手に持った小さなグラスに入ったピンク色の液体。炭酸のようだが。
「お前、それ」
不動はフッと笑った。
「べつにいーじゃん…俺、もう14だし」
「お酒は二十歳になってから!」
「うるせ。わぁってるよ」
背後のテーブルに同様のグラスがいくつも並んでいる。半分が空だ。
「それより、お前も飲めよ…うまいぜ?ほとんどジュースだしこんなん」
「飲み過ぎだぞ!バレたら」
バレたら…出場停止まではいかないだろうが、試合に出させてもらえない可能性はある。
そんなの嫌だ。不動と試合に出たい。
グラスを奪うと不動はバランスを崩してテーブルにもたれた。
「ふらふらじゃないか…どこかで休ませてもらおう」
「や、だぁ」
「不動」
「んじゃあこれ飲んでくれたらゆーこと聞くぜ?」
細長いグラスに、少し色のついた透明な液体。不動はニヤニヤとご機嫌だ。
俺は不動からそのグラスを奪いとって一気に飲み干した。独特の匂い。喉の奥が焼けるような感覚。初めて飲むにも関わらず、強い酒だとわかる。
(この匂い)
タン!
グラスを勢いよくテーブルに叩きつけて、不動を睨んでみる。
(アルコールランプとかじゃないだろうな…)
「ほら、行くぞ」
「お〜!さぁ〜すが風丸くん」
ふざける不動の手を無理やり引いた。不動の手はびっくりするほど熱かった。
頭がぐらっと揺れた。気のせいだということにする。
この変に豪勢な建築物はイギリスチームの合宿所だったらしい。
気分が悪いから休ませてほしい
と伝えると一室を与えられた。真っ白なシーツに覆われた大きなダブルベッドが目につく。不動が勢いよくベッドに飛び込んだ。
「皺になるから脱げよ」
不動はころんと仰向けになった。脱がせろということか。
「…あちぃ」
「飲酒なんて…バレたらまた試合出さしてもらえなくなるぞ」
体が熱い。頭が痛い。横になりたい。
乱暴に上着を引き剥がす。不動は俺にされるがままで、上着を引っ張るとその方向へころころ転がった。どうにか上をシャツ一枚にした。
「風丸」
「ん?」
「タキシード、似合ってるぜ」
「え」
「かっこいい」
不動がニコッと笑った。これもアルコールの力だろうか。
ただでさえ熱いのにまた体が熱を発しだす。
「…あ、ありがとう」
「ウソだよ」
不動はベッドの上で身体をよじらせながらアハハハと笑った。
ため息をつきながらもまあ、これが不動なんだよなと納得してしまう。
「顔赤くしちゃって、可愛いねー風丸くんは」
「どーも…嘘でも嬉しかったよ…」
また頭がぐらっと揺れた。
俺はくらくらしながらも上着を脱いで、不動の横に倒れた。
「…熱い」
「俺も」
「お前が、変なもの飲ませるから…」
「酔った?」
「わからない…これが酔う、って状態なのか?」
「……さぁな…」
沈黙が生まれて、規則的な呼吸が聞こえてきた。そっと隣を見ると、そこには可愛い寝顔を見せる不動の横顔。
重たい体を起して、その寝顔を正面から見る。
「…かわいい」
どうしよう。
いや、どうしようなんて、そんな、どうかするきなんて、おれ は
俺は至極丁寧に不動に触れた。ずうっと前から触りたかった、くるんとくせのついた髪を撫でる。それから人差し指で薄い唇に触れた。
どくんどくん
という効果音が自分のなかから聞こえた。
不動の唇は少し濡れてて柔らかくて
いくら触れてても不動が起きなかった。の で
してもいいんじゃないか
キス
とか
「だ」
「だめだだめだだめだ!」
「はあ!?な、なにっ」
不動が飛び起きた。
「お前、なに?どーしたよ」
「すまん」
「今お前にキスしようとしてしまった」
「…は」
「すまん!」
「お前、酔ってんな…」
そんなことで起すなと言って不動はまた寝てしまった。
頭がまたくらくらして、気づくとベッドに横になっていた。不動に手を引かれたんだとわかった。
「キスはしてねーの?」
「してない!断じてしてない!」
「ハハ、してもよかったんだぜ?」
不動の言葉に耳を疑った。俺の頭は単純な答えを導き出した。
不動の唇はやっぱり柔らかかった。
「…………」
「してもいいって、言っただろ?」
「……言った」
親睦パーティーで不動との親睦が深まった。
(来てよかった…)
「またしてもいい?」
「普段のお前にそんなゆーきあんの?」
「……そうだな」
END
2010/06/21