「いっ痛っっ!!」



甘傷



「どうなってる?」
「…切れてる。こっから、びーー」
「い!っ痛っ」
「…ほら、血ぃー」
後ろから不動の白い腕がにゅっと伸びてきた。
人差し指の先にベットリと血がついている。隣の中指の爪がわれてここにも血がついている。こっちはもしかしたら不動の血かもしれない。そのくらい不動の爪には深くまでひびが入っていた。
「つめきりだな」
ベッドを下りてバックの中からポーチを出した。中に爪切りも絆創膏も入っている。
「ほら」
「…ん」
パチン
「あ!おいゴミ箱の上でやれよ」
「ちっ、うるせえな」
パチン パチン パチ


不動の爪がわれた。われただけならまだしも、それで俺の背中にしがみついて爪をたてたもんだからこう
やって俺の背中から血がでているわけだ。


「切ったら絆創膏な」
「んー」
「血、拭かなきゃな」
タオルを濡らしにこうと立ちあがった。
「全裸で行くのかぁ?」
不動が楽しそうに笑う。かわいいなと思う。
「下ははくさ」
ベッドの上でぐしゃぐしゃになっている下着とジャージをとる。
「みんな寝てるから、大丈夫だろ」

「まて」
不動がベッドに座れとジェスチャーをしたので、言われたとおりにする。
「血、スゲー出てる」
不動が腰をずらして近づいてくるのがとてもかわいくって、触れたくて手をのばすと「ちげーよ」と言って前を向かされた。不動の手が背中に触れる。また指で傷をなぞられるのかとかまえていると、背中に軟らかくて暖かい感触。それが下からすーっと上に移動して、傷に触れるとピリッと痛んだ。
「不動…」
「…俺、血の味ってすき」
不動の舌が俺の傷をなぞる。
ピリピリと痛んで、ぞくぞくする。ちゅうっ、と大げさな音をたてる。
「…止まんねー」
そんなに切れてるのか
自分の背中が少し心配になるが、不動につけられた傷なら、と思う。
俺が不動のものであるという証拠。
ゆっくり丁寧に舐めあげていた不動だったが、ペロペロと小刻みに舐め始めた。

「…見たい」
「んあ?」
「お前が舐めてるとこ見たい」
「じゃあ次は腹切ってやろうかぁ?」
不動は俺のわき腹にさっきより小さくなった爪を立てた。
「腹切りかあ」
「ハハハッ!」
声のする方へ振り向くと逆側の首筋に不動が噛みついた。それからやさしくそこをしゃぶる。優しくといっても、いつもよりというだけで、十分乱暴なのだが。
出会った頃のことを思うと、こんな関係になるなんて。

俺は我慢できなくなって不動をベッドに押し倒した。
驚いている不動の頬に軽いキスを落とす。

「はい、おしまい」

不動の髪をぐしゃぐしゃと撫でて立ちあがろうとすると、不動にポニーテールをひっぱられ、俺はベッドに倒れこんだ。不動は俺に跨って満足そうだ。
「こら、不動…」
「もっかいしよーぜ?」
不動が目を細めてにこっと笑う。俺がこの表情に弱いって知っててやっているから、性質が悪い。
「だ め だ」
俺だってしたいのはやまやまだが。なるべく不動の体に負担をかけたくない。明日も練習があるというのに。
「…ふん」
不動は乱暴に俺のポニーテールを解いた。髪をすくい上げて匂いをかぐ。
「いーにおい」

まったく悪質だ。

「…明日も練習あるんだぞ」
反応のない俺にしびれを切らしたのか、不動は俺の前髪をあげて唇に噛みついた。視界が開けて不動の表情がよく見える。そうとう欲情しているようで、目は潤んで、息は熱くて荒い。
中学生らしからぬ艶っぽい表情が、本当に危ないと思う。一体だれがこんな表情を教えたのか。
こうなると俺だって限界だ。
頭でいくら我慢しようとしても、脳が勝手に興奮物質を出すわけだ。ドーパミンとか?たぶんそのあたりの。
「…ちっ、わかった」
俺の我慢が限界に達して、触れようとしようとした瞬間不動が言った。
「俺がいれる」

「…え!?」
不動は俺の脚を重そうに持ちあげた。
「ほら、足開け」
「ばっ…!ばか、っやめろ!」
「んだよ?俺だって男だし。好きな奴にいれてーんだけど」
好きという単語に反応して体が動きを止めてしまう。不動の人差し指が突然中に入ってきた。
「うああっ!」
不動相手といえ、異物の侵入に耐えられそうにない。
「アハハ!もっと色っぽい声出せよ」
「そ、それはお前の担当だろ…っ!」
乱暴に体を起こして不動を再び押し倒した。抵抗される前に指を乱暴に挿しこむ。
結局こうなるのか。
「んぁあ!」
不動の体がビクビクと震える。
「もっと色っぽい声出せよ」
「て、てめぇ…っく…ふっ、ぁぁぁあっ!」
中をかきまわすと不動は嬉しそうに鳴く。先ほど不動に指を入れられた箇所がじんじん痛む。同じことをされているというのに不動は甘い声をあげている。
「はっ…あ、あ、ぁああ!」
気持ちよさそうに体をよじる不動が不思議でしょうがない。なんて言ったら怒られるだろうな。
「痛くないのか?」
「は…?ぁ、いてぇけど…きもちぃ…」
今さら何言ってんだよ、と笑いながら言う。そこに3本目を挿入すると、不動もさすがに顔をしかめた。目をぎゅっとつむると、涙がぽろっと零れた。
「かぜまる…早くし、ろ…っ!」
不動が艶かしく腰を揺らす。指を抜こうとするとそれを惜しむかのようにきゅうっと不動の中が絞まる。
「全く、お前は…」
「ひぁあ、ぁぁあああ!」
性急に硬くなっている自身を挿入する。待ちわびていただろう刺激に不動は歓喜の声をあげる。
「ふあ、あ、あ…かぜ、まる…風丸っ!」
俺が動く前に不動が腰を揺らし始めた。
快感を求めてどんどん激しくなっていくその動きが、俺の理性を引き剥がす。
「な…んで俺が、動いてんだよぉ」
「…いれてやっただけでも感謝しろよ」
らしくないセリフを吐いてみると、不動締めつけが強くなった。
「お、お前に突かれたい、の、に」
これじゃ意味ねえ、と不動が切れ切れに言った。
本能が稼動し始めた。


それから先はあまり覚えていない。…いや、思い出したくない。理性を失うというのは恐ろしい。





「…すまん」
「…………」
「すまんっ!」
「んで謝んだよ?気持ちよかったぜぇ?」
「…はぁ…俺は…」
自己嫌悪だ。
シーツには大量の精液と俺の血のこびりついてしまっている。
洗っても、落ちるかどうか…
「風丸?」
不動が俺の顔を覗き込む。
「後悔してんの?」
すごく、小さな声で不動が言った。

そんなわけないよ。

「そうじゃない…俺も気持ち良かったよ」
不動の表情がころっと明るくなる。当然だろ、と笑う顔がまた愛しい。

「もういいか」
「ん?」
「寝よう!」
不動を抱きしめてベッドに倒れこんだ。
「まだいてぇ?」
「ん?」
「背中」
「痛くないよ」

ぴりぴり痛んだ。
それが少し気持ちいい。



朝になってまた自己嫌悪に陥ったことは言うまでもない


END


2010/06/12
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