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「あっれ〜?どしたの、フレンちゃん。そんなとこでなんかあった?」


似たようなセリフで登場した似たような性質を持ったレイヴンさんの登場に、今日は厄日か!と思わず天を仰いでしまったのは別に悪くないと思った。
どうしてこうなるどうしてこんな状況になるなんでもっと別の人が来てくれないのかなぁ!!と嘆いたところで神様とやらは全く聞き入れてくれなさそうだが、ここにはゼロスも居てくれたので僕が状況説明をしないで済んだと言うことだけは感謝してもいいかと思わないこともない。
ゼロスから説明を聞いたレイヴンさんは中でユーリがルーク様ととんでもないことをやらかしていると言うことに何故か感心していて、小声で「あの青年がいくら見た目が綺麗だからって男に手を出すとはねぇ〜」と呑気に言っていたことには思わず同意してしまったが、「ほんじゃま、おっさんも中を見させてもらおうかな〜」と口走った時にはデッキブラシでフルスイングを決めてしまった。すみません、レイヴンさん。無意識でした。


「ちょちょちょちょっとー!!おっさんを殺す気?!フレンちゃん!!」


難なく避けた癖に何を言う、と言いたかった言葉はそこだったのだけれどそのまま口にするのは流石に憚れて、真っ青な顔をしたゼロスにデッキブラシを渡して今度はモップを構えることにした。こんなところでことに及んでいるユーリが一番悪いが、だからと言って面白がって見るのは間違いだろうと僕は言いたい。耳まで真っ赤にしたゼロスのような反応ではなく普通にレイヴンさんなら面白がって見そうで、そんなことをしたらルーク様が傷ついてしまうだろうから、そればっかりは僕は嫌だった。ただでさえ今、ルーク様は心無い中傷に嫌な思いをしていらっしゃるのだ。下手なところで負担は増やしたくない。だからこそ、ユーリをさっさと連行しなければとも思うのだが。


「のぞきは犯罪ですよ、レイヴンさん」
「今までの自分の行動は棚上げなのフレンちゃん?!!」
「僕はのぞきなんてしていません。ユーリを性犯罪者として連行したいだけです」
「ちょっと一回落ち着いてフレンちゃん!!」


モップ片手に構えて言えば、レイヴンさんは顔を引き攣らせ見守っていたゼロスは失笑していた。
確かに一回落ち着いた方がいいだろ、と言うゼロスの言葉はごもっともだと思わないこともないので大人しく聞いた方がいいとも思うが、レイヴンさんが何をしでかすか分からないのでモップはちょっと手放せそうにない。
「にしても本当にあの青年が男に手を出してんの?」と疑っているレイヴンさんの疑問は中を見れば解決なのだが、どうにか僕としては言葉で納得させてしまいたかった。でも出来ない、と言うのはユーリはああ見えて女性に対してムッツリだと言う傾向があったからで、アドリビトムでの好印象とその女性陣からの評価にレイヴンさんと揃って苦く笑った思い出もあるからで。


「ねっ、フレンちゃん。おっさんにもちょーっとだけ見させてよ」


ガルバンゾでのユーリの暮らしを知っているからこそのレイヴンさんの言葉に、どうするべきかとついつい悩んでしまっていたのが、間違いだった。隙あり!とお前はガキか!とうっかり思ってしまいそうなノリでちゃっかりこそっと覗いてしまったレイヴンさんに、これは容赦なく光竜滅牙槍だなと心に決めたのだが。


「…おーい、おっさん?」


扉の前で硬直したレイヴンさんにゼロスが声を掛けたその光景がなんだかとっても先程のゼロスとのやり取りととても似通っていて思わず顔を引き攣らせてしまったのだが、いきなりレイヴンさんが大量の血を噴き出して倒れた時には驚きとそして呆れが隠せなかった。
…………なぜ鼻血。


「おいおい〜、いくら中で2人がエロいことやってるからって、鼻血出すとかないわー。おっさん」


自分の時の反応はなかったことにして床に倒れるレイヴンさんを見下ろして言ったゼロスを完全肯定するわけではなかったけど、確かにその通りだったので冷めた目で見ていればなぜか最後の力を振り絞ったようにレイヴンさんが床に自分の鼻血で『おっぱい』と書き記したからモップで思いっきり頭をド突いてしまった。子どもでもそんなしょうもないことは書かないと思うのだけどなぜおっぱい。あとそこの掃除を僕がやるとわかっていての嫌がらせなんですか、レイヴンさん。


「野郎の胸板見ておっぱいって……なあなあ、レイヴンって実はあっちの方面の人だったわけ?」


えんがちょ、とでも言うように嫌そうな顔をして聞いたゼロスに、しかし女好きだと公言している彼がそんなわけないだろうと思ったのも確かで、ではどうして中に居る2人を見てそんなしょうもないことを書き記したのだろうと思ったら、ちょっと確かめる術は一つしかないように思えた。



「…ちょっともう一回僕が見てみよう、中を。レイヴンさんが何を勘違いしたか分かるには、その方が手っ取り早いと思う」
「えっ、マジ?なら俺様ももう一回……」



こそこそっと見るにしてはあんまりにも興味津々にゼロスが身を乗り出して来てちょっと本気で不快だったのだけど、中に居る2人は勿論、いろんなところをこのままにしておくわけにはいかなかったので、兎にも角にも一度中の様子を見ることにした。暗がりだからこそあまり視界自体は良くはないが、少し慣れればわりとはっきり見えるので、そんなに問題はない。先程見た時にはこともあろうかユーリがルーク様に汚物を舐めさせていたからルーク様は床に座り込んでいたのだが、今はソファに座るユーリの胸板に背を預けていて、白い上着を床に落とされていてインナーをたくし上げられているからこそ正面からルーク様の体がはっきりと見え…見え、て?


「も…っ、胸ばっか、触んな……ぁっ!」
「いいじゃねーか。別に減るもんでもねぇし?気持ちいいだろ?」
「んんっ、ぅん…っ」
「バッカ、唇噛むなって。声聞かせろよ、ルーク」
「……っ!」
「お前さんの悪い癖は、我慢し過ぎるところだな、と」


いやいやと首を振るルーク様の胸を揉んで指先で乳首を摘まんで捻じるユーリはもう親友でもなくただの変態と化していたのだが、それよりも信じられない光景がそこには広がっていた。ユーリが揉んでいるのはまな板に小豆状態な男性の胸板でなければメロン状態な豊満な女性の胸でもなかったけれど、そこには確かに、うん。なんでか全く分からないけれど、あれだ。女性にしかない筈の膨らみのある胸が あ る わ け で。


「…フレンくんフレンくん」
「…なんだいゼロスくん」
「ルーくんってさ、一体いつからルーちゃんになったわけ?」
「バカを言うなよゼロスくん、ルーくんはライマの王位第一継承者でナタリアちゃんの婚約者だろう?女の子同士だったらそんな婚約成立しないじゃないか」


※キャラを捨ててまで認めたくないわけではなく、キャラを捨ててしまうほどちょっと脳内処理が追いついていないだけです。
※後に大惨事。


「…俺様の目にはルーちゃんじゃないと説明つかない胸があるように見えるのは、一体どういう話?」


どういう話も何も僕の知ったことじゃないだろう!と怒鳴りたくなるのが平常運転のフレン・シーフォと言う人間だったのだが、この時の僕はまともな思考回路を、持ち合わせてはいなかったんだ。


「きっと、下もついてるんだよ」
「無駄に爽やかな笑顔で言うには最低なことだなおぃいいいいいーーーっ!!」


そのゼロスの叫び声は幸か不幸か研究室からの爆発音で掻き消されてしまったのだから、ものの見事にタイミングの外したしょうもない話だった。




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