剣士は大概無口だと相場が決まっている
「ゾロはいつもトレーニングしてるか寝てるかなんだな」
アルトが急にそんなことを言い出したので、ゾロは不機嫌そうに「あぁ?」という言葉を返した。不機嫌というよりは距離を置いているといべきか。ゾロの中で、この異世界人を名乗る男はまだまだ危険人物という扱いだった。何を考えているか分からないという点では、この船に乗って久しい考古学者とて同じだが彼は正直、途中から何を言っているのかわらなくなるから面倒だ。おそらく脳みその作りが違うのだろう。
アルトはぺらぺらと本をめくる。先ほどの質問にもう興味はないのだろうか。マイペースにも程がある。
しばらくして気付いたことだが、彼は異様に本を読むのが早い。ぺらぺらとめくるだけのその行為が、彼にとって列記とした「読書」なのだ。頭に入っているのか正直謎なのだが、分らない所があれば誰かに聞いている様子から見るにちゃんと内容を理解しているのだろう。
「そう言えばゾロの腹部は酷い傷だな。適当に縫われたのか?」
「あ?あー…たしか、医者がいなかったからな。自分で縫った」
「えー…すげーことするなぁ。チョッパーは?どうしていなかったんだ?」
「東の海での話だからな…チョッパーが仲間になったのは偉大なる航路に入ってしばらくしてからだ。そん時にゃ、まだ仲間じゃなかったんだよ」
「なるほどなー」
もうすっかり地図も頭に入っているのだろう。当初のように地名に引っ掛かる事もなく、会話はスムーズだ。
「お前は、剣士なのか」
尋ねたのはゾロだ。
アルトは常に腰に一対の剣をぶらさげていた。それだけみればはっきりと剣士だと言えるのだろうが、いかんせんその剣は抜けないように紐でぐるぐると結び付けられている。抜けない剣を持っていて、それは果たして剣士と言えるのか。
「剣士じゃないよ。科学者」
持っていた本をパタリと閉じて、アルトはゾロと目を合わせる。
「まぁ、確かにこれは武器なんだけど。使うのすごく疲れるから、普段は抜かない。鞘でぶん殴る形になります」
「へェ…」
こいつは強いのだろうか。そう思えばゾロはうずうずしたが、本人に戦う気はみじんもなさそうだ。
「しかし…そりゃあ刀が泣くぜ」
「いいの。時々手入れはしてるよ。いざというとき使えなかったら元も子もないじゃん」
「まぁな」
「…ゾロって戦うの好きなんだ」
「は?いきなりなんだよ」
「目がさぁ、さっきから野獣みたい。俺の知り合いにもそう言う血気盛んな奴いたなぁーっとおもってさ。そいつ死んだけど」
「嫌なこと言うな。俺はしなねぇよ」
「ま、そうだろうね」
ふふ、とアルトは小さな笑みを浮かべた。手には二冊目の厚みのある本。それさえもぱらぱらと読み終わってしまうのだろう。
「三刀流ってどうなの?戦いにくくない?」
「別に」
「ふーん」
言うだけ言って、また読書に戻る。興味があるのかないのかと聞かれれば、そりゃああるのだろうが、今の彼の興味はどうやら本のようだ。船に乗って数日。思えば食事をしているか本を読んでいるかの姿しか見たことがないような気がする。寝ているのか。寝ている時間が長すぎるゾロには今一ピンとこない話だが、ひょっとしたらねていないのかもしれない。しかし、相手は成人した男性だ。そんなことわざわざ聞かずとも、自己管理くらい自分でしっかりできるだろう。
ついにしゃべらなくなったアルトを横目に、ゾロは夢の中に旅立つのだった。
数日後、そのうっすらとした心配が現実のものになるのだが、それはまた別の話だ。
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