02

ここはどこだ。

俺の第一声と言えばそれだった。焦るあまりうっかり日本語で喋ってしまったけどそんなことはどうでもいい。ここはどこだ。大事なことなので二回言った。

記憶に間違いがなければ、俺は先ほどまで屋敷の中をテレンスを探してうろうろしていた筈だ。小腹がすいたので何か作ってもらおうと思ったのだ。
彼は大概の場合キッチンか地下のゲーム部屋(と、俺は呼んでいる)にいる。キッチンにはいなかったのでおそらく地下にいるだろう。地下まで降りるには、当然のことながら階段を使わなければならない。
それが子供の体にとっては結構に重労働なのだ。だから俺はあまり階段の上り下りをしたくなかったし、事実さほどしてこなかった。
しかしこの屋敷の中でまともなご飯を作れるのはテレンス一人っきりなのだ。いや、俺の場合血を飲めばいい訳だから調理の必要なんてない訳なんだけども。とにかく俺にはどうしてもテレンスを探さなければならない理由があって、地下に降りるために階段を下って行った。

その途中で、ずるりと足を滑らせて俺は真っ逆さまに地下へと落ちていった。

そう言えば妙だ。階段で転げ落ちたのならば段差に幾度か体をぶつける筈なのに、そういう感覚は全くなかった。まるで高い所から落ちたみたいに、俺の体は一回床にぶつかってバウンドした。

そして冒頭に戻る訳だ。
ここはどこだ。大事なことなので何回だって言おう。

そこはなんだか近代的な施設のようだった。コンクリの壁に床、天井。妙に明るい照明は屋敷では久しく見掛けなかったものだ。
コツコツコツ、と何処かで誰かが歩いているような音がする。履いている靴はブーツか何かだろうか、少しヒールのありそうな硬い音だった。

ここでじっとしていても仕方がない。実家が何処にあるのかすらとんと見当もつかなかったが(何せ俺は、この人生になってから一度も外へ出たことがないのだから仕方がないだろう)とにかく戻ることを考えなくては。そのためにはまず、人と接触する必要性がある訳で。

…ああ、どうしよう。怖そうな人だったら話しかけるのやめよう。
とりあえず音源をたどって、複雑な廊下をそっと歩く。コツコツコツ、音は段々近づいてきた。よかった、方向はあっているようだ。
吸血鬼になって聴覚も嗅覚もよくなったものの今一方向感覚がつかめない。これも一種の慣れだろうか。訓練あるのみ、ということなのか。そうなのか。めんどくせ。

通路が交差している場所でとりあえず立ち止った。足音の主はまだここを通過していないようだ。前から見るのは不安だが、顔を見なくてはなるまい。目があったら全力で逃げよう。大丈夫、俺吸血鬼だもん。人間が追いつけるようなやわな筋力と体力はしてないのだ。

壁からそっと顔をのぞかせる。そこにいたのは俺よりも遥かにでっかい男だった。具体的に言えば父さん(あ、DIO様のことね)位はあるだろうか。軍服に軍靴、いかにも軍人らしい恰好をしている。軍人て。どうやらここは何かしらの軍の施設のようだ。おそろしい。これは話しかけても見逃してもらえなさそうだぞ。俺は知らずため息をついた。
良くても悪くても、とりあえず尋問はされそうだ。
あ〜〜〜〜参ったなぁ。なんでこんなことになってるんだ。俺は一体何をしでかしてしまったと言うのだ…。

……あ。

今、大層まずいことに軍服の男と目があった。あってしまった。

男はエメラルドの瞳をしていた。優しそうで精悍な瞳だ。女だったら見惚れていただろう、と思うくらいには美しい。ああ、でも今の俺の顔も相当麗しいと思うのでその辺は…どうなんだろう。

「坊主、お前なんでこんなところにいんだ?」

聞こえてきたのは慣れ親しんだクイーンズイングリッシュであった。ということは、ここはイギリス軍基地?なんかよくわかなんけど。でもここまで綺麗なクイーンズイングリッシュを使う軍人って…一体…。
とりあえずこの人が割といい人そうで安心した。はぁー、とため息をつく。なんだか泣きそうだ。

「あ、あの…えっと…ここ…どこ、ですか…?」

「おっ…なんだ、おめぇーイギリス人かよ。ここはドイツ軍基地だぜ?なんでこんなとこにいるんだ?」

ド イ ツ !
ドイツときましたかァ、ほほうなるほど。どうしてこうなった。何故ドイツ。
俺は気がついたらドイツにいたのか、それともあの屋敷がもともとドイツにあったのか。真相は定かではないが残された事実は「@俺は何らかの方法で瞬間移動してしまった」「Aここはドイツ軍基地」くらだろうか。Aはともかく@はどう処理していいのかもわからん。とりあえず放っておこう。
しかしなんでこんなところにいるかだと…?それはむしろ俺がききたいくらいだ。なんで俺ドイツ軍基地なんかにいるの。今すぐ帰りたい。帰ってテレンス特性のアイスにストロベリージャムかけて食べたい。

「あの、えっと…おれ…」

どうしたものか。ぐるぐると色々な考えが頭の中をよぎる。泣きそう。泣いてもいいだろうか。

「あ〜〜〜!わかったわかった、分かったからンな捨てられた子犬みたいな目でみんなっての。泣くな泣くな」

言って、お兄さんは俺の頭をぐりぐりとなでてきた。なでるっていうか、なんだ。むしろこすりつける?力強すぎて痛いくらいだ。頭がぐわんぐわんとゆれる。

「お前、名前は?」

「メリル。メリル・ブランドー」

「おお、そうかそうか。よし、メリルちゃんね。俺はジョセフ・ジョースター!」

「ジョセフ兄ちゃん?」

「!いいねぇ、俺弟欲しかったんだよねン」

ししっと笑う彼はだいぶ幼いように感じられた。一体いくつなんだろう。

「俺がこっから出してやりてェんだけどよォ〜。まず俺にもやることがあっから。そのあと出してやるよ。いいか?」

「うん」

もう俺としてはこの状態から進展するんなら何でもいいです、はい。

「じゃあ俺の服の中入りな!」

……………ええ。

お兄さん、俺は確かに1mも身長ないですが。そりゃあ無茶ってもんじゃありませんか。
ていうか嫌だ。そんなとこに入るのは嫌だ。

ああ、でも背に腹は代えられないし…ああ…うう…。

「お邪魔します…」

断れない日本人魂を笑うがいいさ!!!!(今はイギリス人だけど)(というか、他にいい案もないから従うほかないよな)


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