目が覚めるとジョセフ兄ちゃんがいた。
何故だか心配そうにこちらをうかがっていて…いや、そんなことより油臭い。すごく臭い。お風呂は?お風呂入ってないの??くっさい!!すごく臭い!!鼻が曲がる!!思わず顔をそらせばシーザー兄ちゃんもいた。残念なことにこちらも非常に油臭い。どういうつもりだ!俺を油ギッシュな兄ちゃんズで挟んだって油でぬっとぬとになったりなんかしないんだからねっ!!
あ。おなかすいた。そう言えばなんで寝てたんだっけ?俺が小首をかしげると、ジョセフ兄ちゃんが「もう大丈夫か?」と聞いてきた。
「おなかすいた」
そう言えば兄ちゃんが何処からかいつも飲んでいる輸血用のパックを持ってきてくれる。ひさしぶりの血液は身体に沁み渡るようで…なんていうの…ああ…おれ…何回自分で自分が人間じゃないなー、なんて再認識せにゃならんのだ。ふひぃ、でもようやく一息つけた。
しかしなんでねていたんだったか。夜が来るにはまだ早いし(吸血鬼の癖に、俺はごく健康的に昼型の生活を送っている。ていうかまぁ、送らざるを得ないとも言う)、昼寝…って感じでもなさそうだ。周りの反応的に。
あー………あ、俺ぶっ倒れたんだった。そうだ。思いだしてきたぞ。血液不足でふらっふらの俺はどっかの廊下で倒れたんです。そうです。それでジョセフ兄ちゃんが来たから「おなかがすきました」ってつたえて力尽きたんでした。完璧に思い出しました。ええ、はい!
で、なんで俺が三日間断食…いや…断血液?状態に陥ったかって言うと。
聞いた話によればSPW財団から送られてきた輸血パックをスージー姉ちゃんが間違えて送られてきたのだと思って送り返してしまったらしい。うん、そりゃそうだよね。普通俺のご飯だなんて考えないよね。うん。姉ちゃんらしくいていいと思うよ。
リサリサ先生は「普通にご飯食べてるからてっきりご飯でも代用が効くのかと…」みたいな事言ってて…この人意外と天然だな…。代用効くんなら俺こんなに苦労したりしないよ…ていうか血液なんて摂取しないよ…こんなまずいもの…。
夜はジョセフ兄ちゃんと一緒の部屋で寝ることになった。ニューヨークにいるときにジョセフ兄ちゃんが買ってくれたクマのぬいぐるみと共にベッドへダイブする。長いこと使ってなかったらしいベッドはちょっとばっかり埃っぽいけど、シーツは洗ってほしたのだろう。太陽の匂いがした。
「こーら」
ジョセフ兄ちゃんは俺の首根っこを掴むと、片手でひょいっと持ち上げてみせた。おお、力持ち!わかっちゃいたけど!!
「ベッドに入るのは着替えてからな」
「あい」
あ、噛んだ。
兄ちゃんのこういう所に育ちの良さが垣間見えるよ。テーブルマナーが壊滅的なのはわざとだろうか?靴をきちんと揃えたりとか…地味に所作が綺麗だったりとか…あと女性をエスコートできる所もあるよね。エリナさんをきちんとエスコートしてたよ。なんで普段からそれをしないかなぁ。
もたもたとパジャマに着替える。ふと窓の外を見れば、月がこうこうと輝いている。夜は俺の時間だ。ていうか、単純に太陽が見えないから怯える心配がないと言うだけの話である。
父さん(DIO様の事ね)も何処かで月を見ているのだろうか。そういえばスピードワゴンさんが言ってたっけ。「ディオの事が気がかりだが今は構ってる暇はない」って。まぁ動かない吸血鬼より動いてる柱の男の方が何かと大変だよねぇ。下手したら人類全滅だし。何それ笑えない。
「ふ…くぁぁぁああ」
あーー眠たい!大きなあくびをひとつしてもそもそとベッドの中へ入る。兄ちゃんも隣に寝転んだ。
「おやすみ、メリル」
「うん……おやすみ、ジョセフ兄ちゃん…」
頭なでられるのはまんざらでもない。っていうか、すごくすきかも。兄ちゃんの手は大きくてうらやましいわ。俺の手の小さい事といったら…早く大人になりたいね。
兄ちゃんの腹筋あたりにギュッとしがみつく。この腹筋はもはや俺に喧嘩を撃っているとしか思えない。立派だな、ちくせう。
人の体温って良いよねぇ。あったかくて気持ちいい。俺は冷たいから、なんだかちょっぴり申し訳ないな。
bkm