島に着くとジョセフ兄ちゃんたちは修行だと言って扉の中へと入って行ってしまった。出てきたのはリサリサ先生(というらし)だけで、ジョセフ兄ちゃんとシーザー兄ちゃんは扉の向こうから帰って来なかったので俺は驚いてしまった。
先生は俺を一瞥したっきりでふいと視線をそらすとそのまま何処かへ行ってしまった。おおう。俺は放置プレイなんですか…そうですか…。ど、どうしたらいいんですか…。
とりあえず先生について行くべきだろうか。ここで追わなければ見失ってしまうだろう。でも兄ちゃんたちも気になるのだ。ここを離れてしまったらおそらく再びこの場所に来ることはできないだろう。吸血鬼の俺が簡単に出歩けるとは思えないし、そもそも場所が分からなくなりそうだ。無事だとは思うけど、一体どんな修行をしてるだろう。それにどのくらいで出てこれるんだろうか。俺はなんだかとっても不安だ。
ていうか!リサリサ先生怖い!!俺は気付かぬうちにこっそり存在すら消されているような気がしてならない!!の!!!こわい!!!かえりたい!!!おうちに帰らせろ!!!
先生は去ってしまったけど俺は扉をそっと開けることにした。開けた瞬間からぷんと油の匂いが漂ってくる。
むあっ!?なんだこれ!中央部に巨大な柱があって、それから大量の油が滴り落ちている。底には油がたまっていて、そこに兄ちゃん達がいるようだ。えっ…これは…なに…?シーザー兄ちゃんが柱に張り付いているところから見て、どうやらこの柱を登って行くのが修行…なのではなかろうか…。波紋って本当に何でもありだよね。どうやってくっついてるんだろう。
「兄ちゃん…」
しゃがみこんで下をマジマジと覗く。まだ柱にくっついてないジョセフ兄ちゃんがこちらに気づいたのか、大きく手を振っていた。
「メリルー!心配すんな〜〜!!こんな修行よォ、俺にかかりゃあちょちょいのちょいだぜ〜!だから安心して待っとくんだな〜〜!!」
ジョセフ兄ちゃんの声は軽い。そんなこと言われても…心配なんだけど…。だって張り付いてるシーザー兄ちゃんは全く余裕なんてなさそうだし。
「うん!……うん…」
でも俺には頷く事しかできないのだ。だって俺が兄ちゃん達に心配をかける訳にはいかないんだもん。
あーあ。さみしい。全然知ってる人のいない俺には味方って言うのはほんとにジョセフ兄ちゃんと…たぶんシーザー兄ちゃんもかな。たった二人しかいないんだもんな。ここにはきっと波紋使いの人しかいないから、俺は基本的に常に命の危機って感じなんだろう。いや、まぁ普段からそうだと言えばそうなんだけど。
兄ちゃん達に手を振って、俺はそっと扉を閉める。
修行は何日かかるか分からない。ここからはほんとに一人だ。俺は右も左もわからなくて、でも周りから嫌われてる事だけは分かってる。あんまり突き詰めて考えると正直泣いてしまいそうだ。
しょぼーんとしたまま音のする方へ歩く。たぶんリサリサ先生だと思うんだけど、確信はない。匂いはだいぶ薄れてしまっているし、音もすごく遠い。
あの人本当に俺を置いて行ったんだな…なんだよ…まじかよ…吸血鬼とはいえ一応三歳児なんだけど…中身はそこそこいい歳だけど、見た目からは分かんないよね?そういえば何度か「しっかりした子供だな」とは言われたけど…でも中身がもうとっくに成人済みだとは流石に思わないだろうし…。まじかー。探さないとなー、うあーーん。探してもいい事なさそうだよぉ。
「……はぁ…」
ああ、もう、おなかいたい。
そのあとなんとかリサリサ先生のいる所までたどり着いたけど、先生は俺をガン無視。おい…流石に怒るよ…。先生美人なんだけどあたりきついよなぁ。お腹すいたし…。ふぐう…。さみしいしひもじいよぉ。兄ちゃん達早く修行終わらないかなぁ。
「あら、あなた…」
不意に後ろから声が聞こえて、俺は慌てて薄くたまっていた涙をぬぐった。
後ろにいたのは金髪の少女だった。17歳とか…そのあたりだろうか?ワンピースの上から可愛らしいドットがらのエプロンをつけている。
「だあれ?」
きょとんとした顔のままそう尋ねられる。可愛い人だなぁって思った。なんていうの?純粋さが顔に表れていると言うか。
「おれ、メリル…」
「メリル君?」
聞き返されて無言でうなずく。
「そう!あたしね、スージーQよ!この屋敷で働いてる…うーん、使用人みたいなものかしら?よろしくね!」
にっこり笑った笑顔がまぶしくて…なんていうの…あの…俺は……………泣いた。
そりゃもう泣いた。力の限り泣いた。だって!だってスージーQ姉ちゃん優しいんだもん!!リサリサ先生怖いんだもん!!!なくわ!!!!!!!三歳児なめてんのか!!精神的に大人でも肉体三歳児だから超引きずられるんだよ!!!!!分かります??いやむしろ!分かれ!!!
bkm