天気予報じゃ一日晴れだって
**月**日
遊んでいたら血を吐いた。晴矢君が駆けつけてきてくれた。
晴矢君と少し仲良くなった。病室にいる茂人君とも少し仲良くなった。
その光景に、俺は眼を疑った。
そいつは少し前に兄弟そろってこのおひさま園にやってきた赤毛で、最近兄の方がやたらと父さんに構われてて、正直憎らしくて仕方がない。入ってきたばかりのくせに父さんを一人占めして…という思考回路に行きつくのは仕方のない事だ、と俺は今でも思う訳で。今でも兄の方はそれほど好きじゃない。ぶっちゃけ嫌いだ。俺にはない物をたくさん持ってるくせに、それを大事にしないあいつは嫌いだ。
それはともかく。俺は目の前で咳き込む赤毛の弟を見て言葉を無くした。さっきからやたらと咳き込んでいるとは思ったが、よくよく見れば血を吐いているのだ。咳は止まっていない、血がべちゃべちゃと地面に落ちていた。慌てて駆け寄れば顔色が悪い。どうしてこんなことになってるんだ。とりあえず背中をさすって落ち着かせた。
誰か大人を呼ばなけりゃやばい。
赤毛のやつはまだ咳き込んでいる。
どうしよう、どうしよう、どうしたら…。
「晴矢くん?」
瞳子姉さんだ。俺はこの時助かった、と小さく安堵した。
「血、吐いて…止まらなくて…!!」
やっと落ち着いたが、ヒューヒューと空気が器官を通り抜ける音がする。病状は決してよいとは言えない。姉さんが慌てて救急車を呼んだ。心配だったので無理言って俺も乗せてもらった。
救急車の中でそいつはまた血を吐いた。こいつはこのまま死ぬんじゃないかと、そう思った。
そしたら兄のあいつは本格的に一人ぼっちになる訳だ。
この時少しだけ、ざまぁみろと思った。あいつは俺にない…いや、俺たちにないものを持っていた。その筆頭が弟で、いわゆる肉親と言う奴で。もちろんおひさま園に兄弟がいなかった訳ではないけれど、俺はあいつが気に食わなかったのでそう思ったのだと思う。
人の不幸は蜜の味だなんて、随分的を射た言葉だと思った。
結果からいえば、そいつは血を吐きすぎたせいで貧血にこそなりはしたものの、胃に穴が開いただけで命に別条はないらしい。ただしばらく飯は食べられないだろうから点滴で生活しなければならないそうだ。しばらく入院の必要があるらしい。病室はそのころ入院していた茂人と同じ部屋。
早くよくなれよ、って声をかけたら「ありがとう」という言葉と柔らかい笑顔が返ってきた。男相手にちょっとドキッとするところだった。あぶねぇ。
おひさま園に帰ってからそいつの兄貴をとっ捕まえて事情を説明した。
「ふぅん」
長々と説明してやったのに、返ってきたのはその一言だけ。今日一日で目を疑った上に耳まで疑うことになった。たった一人の家族が入院したってのに、こいつはもっと他に言うことがないのか!!俺には兄弟がいることすら羨ましいというのに!!!
「…随分な反応だな」
「だって、命に別条はないんでしょう?それに病室に友達もいるみたいだし…だったら、俺は別に行かなくてもいいよね」
そういう問題であるものか。
俺とそいつはその日始めて喧嘩をした。
悔しい、悔しい!!!
俺が持っていないものを持っているくせに、それを大事にしないあいつが、俺は大嫌いだ!!!!
茂人から聞いた話によると、そいつは寝言でたびたび「お兄ちゃん」と呼ぶらしい。
俺はこの感情をどうしていいか分からなくて、乱暴に電話を切ってしまった。
後で茂人に謝りの電話を入れなければならないな、とぼんやり考えた。
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