これは怒られちゃうね










目が覚めると知らない場所にいた。
体中がぐちゃぐちゃに痛くって起きるのも億劫だった。頭だけを動かせば、どうやら僕は無機質な灰色の部屋に寝かされているようだった。ベッドはかたく、布団は薄い。

ここは一体どこだろう。
どうして僕はここにいるんだろう。

この部屋には窓もない、時計もない。幾許かの機械類がせわしなく動いているが、それが一体何なのか、僕には見当もつかなかった。ただ体中が痛くて痛くて、そしてひどく悲しい気分だった。

リュウジ達に会いに行くはずだったんだ。
なのにどうして僕はここにいるんだろう。
どうして僕はリュウジ達と会えなかったんだろう。

どうやらこの部屋には僕の荷物は一つもないらしい。気を失う前の記憶をひっくり返せば、車にはねられた事を思い出した。かといって、ここは病院らしくない。痛みに悲鳴を上げる体を無理やり動かせば、僕の体が視界に入った。
包帯がぐるぐる巻きにされているがギプスなんかはつけられていない。そもそも何とか動かせるという事は、ある程度軽度の怪我であるのだろうか。素人目ではよく分からない。でも体は痛いし、包帯に血がしみている事実は変わりない。動きにくいが動く事が出来る、ということの方が僕には重要だった。

ちゃりん、と首元で音がした。見ればきらきらと輝く不思議な石のネックレスが僕の首にかかっていて、首をかしげる。僕はこんなネックレスに見覚えがないし、ましてやつけた記憶もない。という事は誰かがつけたのだろう。いったい誰が?無理な動き方をした所為で、点滴をつけられた手首が少し痛む。まるで首輪みたいだな、なんて取り留めのない事を考えた。

ふいに空気が抜けるような音とともにドアが開いた。あれがドアだったのか、随分近未来的なドアだなぁ、とぼんやり思った。思考回路が低下していた。

「おや、お目覚めですか」

入ってきたのは風に吹かれたら飛んで行ってしまいそうなほど細身の、顔色の悪い男の人とスキンヘッドにサングラスをかけた、何処か研究員風の男の一数名だ。さっきの台詞は細身の男の人のものだ。
僕は小首をかしげた。生憎この人たちに見覚えはない。お医者さんだという感じもしない。

「誰ですか?」

「なに、名乗るほどのものではありませんよ」

細身の男の人はそういう。研究員風の男の人たちは忙しなく機械と向き合っては数値が云々にいあっている。僕にはそういう事はさっぱりだが、どうやら僕のデータらしいという事はぼんやり理解した。僕みたいな子供のデータを取って、この人たちはどうするつもりなんだろう。細身の男の人はぶつぶつ言っていて、なんだか気味が悪い。
研究員風の男の人の一人が僕の首にかかった石をしげしげと眺めては「問題ありません」といった。問題無いって何だろう。なんの問題なんだろう。僕の脳みそはふわふわしていた。

「よろしい。怪我の完治を待たなくても結構です、第二段階に進めなさい。……これほどの怪我も、エイリア石にかかれば数日で治ってしまうのですね」

エイリア石?何だそれ。

男の人二人にわきを持たれて、僕は引きずられるようにその部屋を後にした。細身の男の人は何事かを言い残してその場を去っていったけど、はて、何を言っていたんだったっけな。体中がぎしぎし痛くて、引き摺られている途中で何度か痛い痛いと言ったけれど聞き入れてはもらえなかった。

そのあとの事は、正直あんまり覚えていない。

ただ「このやり方は失敗だ」「あのやり方は失敗だ」「これをこうすれば成功するんじゃないか」「また駄目だった」というような趣旨の言葉とともに僕の体は酷く痛めつけられていった。何かの実験だったのだろうけど、未だにそれが何であったのか僕は良く分かっていない。あまりに失敗が多いので幾人かの男の人は僕を殴ったりけったりした。酷い。僕のせいじゃないのに。血を吐いても実験は終わらなくて、僕は本当にこのまま死んでしまうんじゃないだろうかと思った。
時間の感覚は全くと言っていいほどなくなっていたけれど、おそらく夜になるごとにもといた部屋に返された。ご飯もちゃんと与えられたけど、どんなものが出たのかも覚えていない。そのうち全部を点滴で賄われるようになった。

そんなことが数日続いて、ようやく実験が成功したらしい。良くやったと僕は頭を撫でられたけどちっとも嬉しくなかった。何時殴られるかびくびくしていた記憶しかない。僕はぼろぼろ泣きながら「いっそ殺して」と頼んだが、男たちに「駄目だ」と笑顔で答えられて、本当になぶりごろされてしまうんだろうな、と思った。





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