ぐちゃぐちゃになちゃった
**月**日
寒いね
朝、起きたら
誰もいなかった。
名前を呼んでも、探し回っても、泣いても、転んでも、誰もいない。
あぁ、ついに僕は捨てられてしまったんだ。
僕が何かしてしまったに違いない!!僕が悪い子だから、きっと僕が悪いんだ!
だから泣いていたって仕方ないし、いつまでもいつまでも悲観している訳にはいかない。お父さんとお母さんが死んだときと違って、もう誰も助けてくれないんだ。お兄ちゃんでさえ。
だから駄目だ、泣くな。泣いちゃ駄目だ。
そう思ったのに、止まらない涙に僕は辟易した。
僕の本質はやっぱり、甘えたがりの意気地無しだ。他の人がいないのがこんなにさみしい。誰もいない庭がさみしい。このままご飯を食べなければ、僕は死ぬんだろうか。死にたくないけど、死んでしまいたい。寂しい。寂しい。
「おにいちゃん…」
一人になった時思い出すのは、たいていお兄ちゃんの事だ。
お兄ちゃんは昔、ずっと僕の味方だった。寂しい時はお兄ちゃんにくっついて離れなかった。僕よりも少し高い、お兄ちゃんの体温が懐かしくなって、僕はさらに泣いてしまった。
どうして僕はひとりなんだろう。
僕は一体何をしたんだろう。
僕、何か悪いことしたっけ?
馬鹿みたいに涙が止まらなくなって、このまま脱水症状で死んだらどうしようってぼんやり思った。どうせご飯を食べる気もない。餓死するか、それとも脱水症状で死ぬか。どっちでもいいなぁ、と思った。でも餓死ってすごく苦しい死に方らしい。それは嫌だなぁ。
このまま涙が止まらなければ、このまま死んでしまえるかなぁ。
死んだら、お父さんとお母さんにも会えるのかなぁ。
あぁ、でも駄目だ。きっとお父さんとお母さんはお兄ちゃんを置いてきた事を怒るだろうな。お父さん怒ると怖いんだ、怒られたくないなぁ。
死にたくないよ、でもずっと一人でいるのは嫌だよ。
「………………彼方?」
ふいに、僕以外の人の声が聞こえた。
「彼方!」
振り返れば、瞳子さんが唖然とした様子で立っていて、僕が振り返ったとたん我に返ったように駆け寄ってきた。瞳子さんに抱き締められて、ちょっと痛かったけど、すごく安心した。でも、瞳子さんはどうしてここにいるんだろう。僕は捨てられたんだよね、瞳子さん僕を拾いに来たのかな。
あ、涙を止めなきゃ。瞳子さんが着ている服がぐしょぐしょになってしまう。
「ひと、みこさ、ん」
涙も嗚咽も止まらない。僕は駄目だ。また迷惑をかけてしまう。
「りゅ、じも、おさむも、ふう、すけも、みんな、いない、の。ぼく…僕、捨てられた、の?」
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!
捨てないで!!!!!一人にしないで!!!!
「彼方」
瞳子さんの声はいつだって柔らかい。
「彼方、大丈夫よ。みんなあなたの事捨てたりなんかしないわ。…皆、ちょっと用事があって出かけてるだけよ」
「…………ほんと?」
「本当よ。…私、彼方に嘘ついた事あったかしら?」
嘘だ、と思ったけど、嘘だと認めると僕が壊れてしまうような気がした。
「…………」
「だから、待っててくれる?」
「分かった…」
瞳子さんが待てというなら、僕はずっと待ってるよ。
だから、だから早く帰ってきて。
僕が死んじゃう前に帰ってきて。
あ、瞳子さんが泣いてる…。
泣かないで欲しいなぁ…頭を撫でようとしたけれど、僕の背じゃ届かないね。
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