今日は暖かいからすぐ乾くよね
**月**日
治の手はあったかいな。触ってると幸せな気持ちになれる。
頭撫でられちゃった…えへへ…。
「治の手はあったかいね」
彼方が唐突にそんな事を言い出した。
暖かいのだろうか。自分ではよく分からない。彼方に手を弄ばれながらそんな事を考える。
体格差からか、まるで親子のようだと称された…ちょっとショックだ。
「そうか?」
「そうだよ」
彼方はくすくす笑う。私の膝の上に寝転がって、まだ私の掌を触りながら指をもんで見たり、手のひらを握ってみたりを繰り返す。割とくすぐったいんだが。
「治の手はこんなにあったかいんだから、きっとみんなに幸せを届けてくれるね」
「…そうだったらいいんだがな」
私の手から幸福がうつるというのであれば、お前は今もっともっと幸せなんじゃないだろうか。いっそ私の幸福が、お前に分け与えられればいいのに。
私は、一時期から比べると感謝してもしたりないほどに幸せで。でもお前は違うだろう。
「ふふ…」
「どうした」
「治の手はあったかいだけじゃなくて大きいんだね。僕の手よりずっと大きいよ、ほら見てみて」
「…彼方が小さすぎるだけじゃないのか」
「そうかな?」
体格差から多少うかがい知れるだろうが、私と彼方ではやはり親子ほど大きさが違う。私が多少大きいというのもあるだろうが、これは彼方が小さすぎる所為もあるのだ。
「治がお母さんだったらいいのにな」
「………それは、その…とても複雑なんだが」
せめてお父さんが良い。
「この前瀬方君に母に日のプレゼント貰ってたよね」
「あぁ…あれは正直へこんだ」
「だって、治面倒見いいんだもん。僕なんかにも構ってくれるし」
「……………」
私は無言で彼方の額に手刀を振り落とした。「あたっ」っと小さく叫ばれたが、無視だ無視。
「自分を乏しめるのはやめろ」
「………厳しいなぁ、治」
私の言葉に肯定はしない。何か思うところがあるような顔をして、叩かれた額を2、3回撫でるだけだ。
「でね、さっきの話なんだけどね」
「まだ続けるのか」
「えへっ。治がお母さんだったら、お父さんは誰かな?リュウジかなー」
何基準でリュウジが選ばれたのは少々謎なんだが。
その後いくらか家族ごっこの配役の話題は出たが、姉や妹、弟の配役はあっても兄の配役だけがなく…頭を撫でたら、くすくすと笑われた。
「どうしたの?」
「いや…何でもない」
この手から幸せが移ればいいのに。
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