昨日は雨だったから地面がぐちゃぐちゃだ!
**月**日
きっと全部僕が悪いんだ。僕は…僕は、ここにいちゃいけないのかもしれない。
いっそ××××。(黒く塗りつぶされている)
最近、ずっとイライラしていた。
理由は分かってる。サッカーが今までみたいに楽しいものじゃなくなったからだ。己の力を誇示する物、父さんに認められて最強の名を冠するものになるためのもの。
父さんのためなら、たとえ大好きなサッカーが楽しくなくたって構わない。でも、気持ちはそれに必ずしもついて行ける訳じゃない。
俺のしたいサッカーと、俺のするべきサッカー。その相違に、俺はずっとイライラしていた。
ふいにポン、という軽い音とともにサッカーボールが飛んできた。
「晴矢ー!」
ボールを飛ばしてきた犯人はどうやら彼方らしい。いつものように楽しそうに、ニコニコとしている。しかし走ってきたらしく、少しの距離だろうにかたで息をしていた。相変わらず体力のない奴だ。ちゃんと飯食わないからだっつーの。
彼方はサッカーボールを拾い上げると「ごめんね、当たらなかった?」と聞いてきた。大丈夫だと答えれば、俺にサッカーボールを差し出してくる。
「晴矢!一緒にサッカーしよ!」
彼方は父さんの計画に含まれていない。なぜなら、父さんは彼方に「気づいていない」からだ。いないものを頭数に入れるような事はしない。
だから彼方はこの計画について、チームについて、目的について、何も知らない。知らされていない。
その時、俺はイライラしていた。
楽しいサッカーが、今まで俺達がやっていた俺達のサッカーが出来ない。胸の奥が気持ちわるくなるような感情だった。
彼方はいつものように、楽しそうにサッカーをしている。
…楽しそうに、サッカーが出来る。
良いな、と思った。俺もサッカーしたい。俺達のサッカーがしたい。でもできない。父さんはそんなこと望まない。サッカーしたい、でもできない。イライラする。
我に返ったのは取り返しがつかなくなってからだ。
俺の右手がジンジン痛くて、彼方の頬は赤くなっていた。驚いたような顔をして、緑の瞳を目いっぱい広げて、じっと涙をこらえているようだ。手に持っていたサッカーボールがどこかに飛んでいった。あれは彼方が大事にしていたものだ。転がった先を見れば、こちらも驚いたような顔をした緑川が立っていた。
「そんな腑抜た顔で、サッカーすんじゃねぇよ!」
俺の口からぼろりとこぼれた言葉は、ただの八つ当たりでしかなかった。
でもこの時の俺には、素直にそんなことを認める事も出来なくて。イライラとした感情のままにそこから立ち去った。彼方が「ごめんなさい」と遠くから言っていた事は知っている。でも俺は立ち止まらなかった。
「は…晴矢!はるやぁ…」
うっさい泣くな。
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「ごめんね、ごめんね彼方、痛いよね、ごめんね」
リュウジがそんな事を延々言いながら僕の手当てをしてくれた。
へんなの。どうしてリュウジが謝るの。きっと悪いのは僕なんだよ。だって、晴矢だって理不尽に人を殴ったりしないもの。きっと僕が悪いんだよ。
「ごめんね、ごめんね」
もう謝らないでってば。…リュウジ、どうして泣いてるの?どこか痛いの?
「ごめん、ごめん、ごめんね…」
リュウジ、きっと僕すごく悪い子なんだね。だからお兄ちゃんも晴矢も僕を怒るんだよ。だからきっと、リュウジが悲しむんだよ。ねぇ、リュウジ。僕、リュウジが悲しんでるの嫌だな。泣かないで、ねぇ…ねぇってば。
あ、駄目だ。僕、今嗚咽が酷くて声なんか出せそうにない。
お兄ちゃんを怒らせたり、晴矢を怒らせたり、リュウジを悲しませたり。ああ、僕は一体何のために生きているんだろう。
もういっそ、死んでしまいたい。
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