友達を誘って公園にいってきた

**月**日
リフティングで新記録達成!
あーあ、もっと体力があったら長い事続けてられるのになぁ。














ポンポンと軽やかにボールを蹴る彼方。

彼方はサッカーがうまい、と思う。少なくとも僕よりはうまい。晴矢あたりはそんなこと認めないだろうけど。リフティングの回数でも勝った事無いくせに。
これで体力があったら立派なサッカー選手になれるだろうに。いかんせん彼には体力というものがなかった。走れば2分と経たずばてる、何をするにも体力がすぐ無くなるようで、あまり長時間ボールに触れている事は出来ない。理由は分かっている。ご飯をきちんと食べないからだ。食べなければちゃんとした筋肉もつかないし、体力だってつかない。
なぜちゃんとご飯を食べないんだと聞いた事があったが、食欲がないのだという返事しか返って来なかった。何故食欲がないのか、ぼくにはよく分からない。
ただ、ヒロトが視界に入るととたん、そっと僕の方にすり寄ってくるので、なんとなく察する事は出来た。僕がいなければ晴矢に、晴矢がいなければリュウジ、もしくは茂人に。時には治にもそっとすり寄っていく。

…ヒロトに罵倒され続け、彼方はすっかりヒロトとの接触を恐れるようになってしまった。元々そんなに食べる方ではなかったようだけれど、彼が視界に入ったとたん緊張か、はたまた畏怖か恐怖かの所為であっという間に食欲を無くしてしまう。無理やり食べると戻してしまう。いっそヒロトを同席させない方がいいのでは、と思ったが、それでなくても同じ事だ。彼方には小さな体には大きすぎるストレスを抱えている。胃に穴が開いたのだって、食欲がないのだってその所為だ。そしてそのストレスの源は、僕たちには取り除けない。

「彼方、そろそろ戻ろう。疲れただろう?」

「もう、ちょっと…」

彼方はすでに肩で息をしている。リフティングを始めてそう時間がたっている訳ではない。

彼方はサッカーが好きだ。
だから長時間、出来るだけボールに触れていたいという。

彼方はヒロトが好きだ。
だからヒロトと共にやったサッカーから離れたくない。

ヒロトはサッカーが好きか、僕は知らない。

ヒロトは彼方が好きか、僕は知らない。

「うわっ」

ついに体力が限界を迎えたのか、彼方がバランスを崩して倒れこんだ。

「だから言っただろう」

「えへ…ごめんね」

手を差し伸べて起こしてやる。こいつは同い年のくせに小さくて軽くて細い。本当に風に吹き飛ばされそうな奴だ。

「風介、今度は晴矢と一緒にサッカーしようよ!」

「駄目だ。あいつは手加減ってものを知らない」

「えーー、いいじゃん」

「駄目。怪我してもしらないぞ。体力の限界を突破してぶっ倒れてもしらない」

「えぇっ!?それは酷いよ!倒れたら助けてよ!!」

「気が向いたらな」

「えぇー」

「嫌ならもっと気をつけろ」

「はぁい」





この1年後、「僕」は「私」になるのだけれど、この時はまだ知る由もない事だ。






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