「はじめまして、桜ちゃん」
私がはじめてその人と会ったのは、間桐のおうちに来た日の事でした。
わたしは間桐のとうしゅのこんやくしゃとしてこのおうちにきたようなのです。しょうらいの事をかんがえて早いうちから間桐の魔術をならってきなさい、とおとうさまがいっていました。わたしにはむずかしくてよくわからないけれど、そういうことらしいのです。
その人はかりやおじさんによく似ていました。
でもかりやおじさんより何だかあったかくてぽわぽわした人でした。
髪の毛はまっくろで、でも肌はすごく白くて、とってもやせていました。うすむらさきの着物がとっても良くにあっていて、わたしはこのひとはだれなのだろう、と思いました。
その人はやわらかくほほえんで、わたしのあたまをなでてくれました。
「俺が間桐家当主、間桐***です。よろしくね」
わたしはしょうらいこのひとのおよめさんになるのだと、そのとき知りました。
でもその人はすごく年上で、私はすごく子供で。わたしはよくわからなくて首をかしげました。だって、としがすごくちがうのです。けっこんとか、まだよくわからないけれど、できるものなのでしょうか?どんなに年がはなれていても?
けれどそのひとは、ぽかぽかでふかふかであたたかくて、わたしはすぐにその人が好きになりました。その人がそばにいるとわたしはとてもおちつくのです。
しばらくのあいだ、私はそうしてその人といっしょにいました。
ある日、その人のぐあいがわるくなって部屋から出られないのだとおじい様に聞かされました。わたしはすごくかなしかったですが、その人が元気になるようになにかしたいとおもいました。
おじい様はそんなわたしのはなしをきいてくれません。わたしのてをひっぱって「やっと出来る」とかブツブツ言っていました。私はなんだか怖くて、にげ出したい気持ちでいっぱいになりました。でもにげられません。
わたしはくらい部屋の中につきおとされました。そして
近所のおじさんがしばらくりょうにでるということで、僕もついて行くことにした。
数日間島を離れるのは、この島に来てはじめてのことだ!ちょっとどきどきする。
おとうさんはなんだか嫌そうな顔をしていたけれど、ごり押しして許してもらった。おじさんは僕が釣った魚はもって帰ってもいいって言っていたので帰ったらシャーレイがさばいてくれるって!楽しみだなぁ。
しばらくおじさんと魚を釣ったりさばいてもらったり食べたりして、島に帰ろうってしたときへんなことにきづいた。
島が真っ赤だった。
こんなのはじめてみた。おじさんもあわてているみたいで、島にはいろうとしたけど黒い服の人たちに止められた。よくわからない。どうしてこうなっているんだろうか。
ようやく島に入れるようになって、おどろいた。誰もいなくなっていた。
やさしかったおばさんも、むちゃをしてはよくしかってくれたおじさんも、けがをしたら手当てしてくれたお姉さんも、いっしょになってあそんでくれたお兄さんも。みんないない。あたりは真っ黒で、すごく気持ちが悪かった。
僕は慌てて、父さんと弟をさがしにはしった。家に着くと、そこは黒くはなかった。
黒くはなかった、けれど、一部分だけどす黒くなっていた。それは、なんだろう。
これは――――夥しいまでの血痕だった。
何が起こったのか。考えるべくもない。そうだ、きっとここで弟は父を撃ったのだ。
気がついてしまった。何故僕は弟のそばにいなかったのか。
弟は、ここで「正義の味方」という坂道を転がり落ちていってしまったのに。
「切嗣…」
誰もいない。父の死体もない。魔術に関する研究結果の類も一つも残っていない。
僕には、一体何が残されたのだろうか。
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