真夏の鞘当て
「な、頼むよー!」

「いい加減にしてくれない?毎度毎度合コンセッティングしては#名前#連れて行ってるのに、告白もしないなんて!そろそろ私が男に飢えてる可哀想な子だって思われるじゃない!」

「ごめん…」

「私には#名前#がいれば彼氏いらないんだけど」

「うん、俺もそれくらい#名前#ちゃんのこと好きだよ」

「じゃあさっさと告白しなさいよ!ヘタレ千石!!」



昼間のファミレスで俺に怒鳴りつけるのは、俺の好きな子の親友。ずっと相談にのってもらってるけど、俺はあと1歩が踏み出せなくて、#名前#ちゃんとの関係は一向に進展していない。



「今日だって二人で遊びに行く予定だったのに、千石が至急来いって呼び出すからドタキャンしちゃったじゃない」

「これで最後にするから!もう頼まない!」

「…諦めるってこと?」

「違うよ!今回の浜辺デートで告白して、俺のものにするんだ!」

「やっと腹括ったのね。おめでとー」

「あれ、あんまり祝われてない気がする…!」

「付き合うかどうかはあの子次第だから、私からは何とも言えないもの」



#名前#ちゃんの友達が飲んでいるジュースが入ったグラスは、まるで汗をかいているようで、夏場の溶けるような暑さを物語っていた。








とうとう運命の日がやって来た。俺が#名前#ちゃんに告白する日だ。



#名前#ちゃんを誘う時、思わず今後ちょっかい出さないなんて約束しちゃったけど、今日で彼女にするから関係ない。関係、ない。

その約束をしたときに#名前#ちゃんが嬉しそうに見えたのは気のせいだ。





今回の合コン(という名の俺の告白チャンス)に海を選んだのは、夕焼けに染まる浜辺でロマンチックに告白!という憧れのシチュエーションを実現するため。

そんな雰囲気なら#名前#ちゃんもきっと頷くしかないと思うんだよね!



どこか良い海がないかと探しているときに、六角の佐伯くんにアドバイスを貰ったから、お礼に一緒にどう?なんて誘ったら、二つ返事でに来てくれることになった。



「そろそろ六角が来るころだと思うんだよなー」



「ねぇ!千石!あの王子さ…あの人、誰?」



海辺を見渡していると、若干興奮気味の#名前#ちゃんに呼び止められた。



「ああ、あれは六角の佐伯くんだね。佐伯くん!やっほー」

「ああ!千石、今日はお招きありがとう。剣太郎やバネさんたちも連れてきちゃったけど、よかったかな?」

「もちろん!人数多い方が楽しいからね!」

「ははっ、ありがとう。ところでその子は?」



佐伯くんは爽やかな笑みを浮かべたまま、#名前#ちゃんに視線を落とした。

ダメだ、そんなキラキラした笑顔でこの子を見ないでくれ。だってこの子は、



「名前ちゃんって言うんだ!可愛いでしょー!でも俺のだから、いくら佐伯くんでも譲れないよ!」

「何いってんのよ!」

「いっ!!」



佐伯くんに見えないように横腹を殴られた。
まるで私の恋路の邪魔をするなと牽制されている気がした。
俺の恋路の邪魔をしているのは、現在進行形で佐伯くんのほうなのに。



ああ、そうか、俺には佐伯くんを止める権利なんてない。キラキラした笑顔で見るのだって彼の勝手だろう。だって#名前#ちゃんは…俺の彼女じゃないんだから。



胸の奥からドロドロとした黒い何かが溢れてくるのを感じた。

嫉妬なんて醜い。ただの友達なのに。こんな感情、かっこ悪いな。





「今まで会ったことないよね?君みたいに可愛い子なら、一度見たら忘れないだろうからね」

「そ、んな、可愛いだなんて…」

「冗談じゃないよ?俺はいつだって本気だからね」



佐伯くんの甘い言葉にいちいち頬を染める#名前#ちゃん。この子の心が佐伯くんに傾きかけていることなんて、誰が見ても明らかだったが、意地でもそれを認めたくなかった。

俺には見せない可愛らしい顔で笑う#名前#ちゃん。俺のほうがずっと君をドキドキさせるくらい甘い言葉を囁いているはずなのに。







醜い感情がドロドロと、アイスが溶けていくように流れては止まらない。

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