Festa della donna
イタリアに来て初めての春。任務から帰ってくると、玄関口でレヴィに黄色い花を貰った。


「あ、ありがと…?急にどうして?私、誕生日とかじゃないよ」

「知っている。黙って受け取れ」

「うん…」


理由は分からないが受け取って、部屋に向かっているとマーモンがさっきと同じ花を1株くれた。


「ムムっ。先を越されたか」

「レヴィがくれたの。マーモンの花も同じものじゃない?」

「そうみたいだね。まあいい、受け取りなよ」

「ありがとう…?」


これまた頭上にハテナを浮かべたまま部屋に入ると、今度はベルが私のベットに寝転がってマンガを読んでいた


「まーた他人の部屋でくつろいで!自分の部屋でやりなさいよ」

「お前のマンガ読むのに、マンガ運ぶよりお前の部屋に来たほうが楽だもん」

「私の都合はガン無視かよ」

「うししししっ。あ、そうだ、これやるよ」


ベルが投げつけてきたものを反射的に受け取る。ふわりと手元からさっぱりとしたフローラルな香りが香る。これまたレヴィとマーモンと同じ花の花束。


「また?」

「あ?何だよ、またって。王子のプレゼントに文句でもあんの?」

「文句はないけど、何でみんな揃いも揃ってこの黄色い花を同じ日にくれるのよ」


ベルは私の既に持っていた花を見つけて、ああ、と何か心得たように声を上げた。


「お前、よく馴染んだよな」

「は?何が?」

「んーん、別に」


ベルが視線をマンガに戻す。謎は解けないままだが、生花を放置しておくわけにもいかないので、花瓶を探すことにした。



「さくら、何してるの」

「ルッスーリア。花瓶探してるんだけど、どこかにないかな?」

「花瓶?そうねぇ。あったと思うけど…よくまぁこんなに貰ったわね」

「今日は誕生日でもないのに、みんなやたらと花をくれるんだよね。それもみんな黄色い花」

「ああ、さくらは知らないのね。今日が何の日か」

「何かの記念日なの?」

「今日はFesta della donna(フェスタ デッラ ドンナ)よ」

「女性の祭り?」

「直訳するとそうね。この日は女性に感謝する日で、古くから女性にミモザの花を贈る習慣があったの」

「ふーん。恋人じゃなくても花を贈るの?」

「ええ。同僚とか親友とか、感謝の気持ちを表すものだから必ずしもそこに恋愛感情はないのよ」

「へぇー。じゃあみんな私に感謝してくれてるんだ」

「そういうことね。私からも、はいどうぞ。貰いすぎて困らせちゃうかもしれないけど」


ごめんなさいね、と申し訳なさそうにルッスーリアが差し出したのも黄色い花束。ミモザっていうのか。


「ううん、嬉しいよ!ありがとう!」


ルッスーリアに貰った花束を胸に抱いて笑っていると、後ろから「おい」と低い声がした。


「あ、ボス!」

「てめぇにやる」

「へ…?」


ずいっとボスが私に差し出したのは、これまたミモザの花束。それも今までに貰ったどれよりも大きい花束。


「…何だその反応。受け取らねぇってんならかっ消すぞ」

「滅相もない!まさかボスもくれるなんて!ありがとう、ボス!」


いつもぶっきらぼうで私になんて興味ないんだと思っていたから、認識してもらえていることが嬉しかった。それもこんなに大きな花束をくれるとは。


「ニヤニヤしてんじゃねぇ、気持ち悪い」

「ひどっ!ボスに貰えて嬉しいんですー!」

「ハッ、花なんざいくらでも贈ってやる」

「わーそういうのってイケメンの特権ですよね」


「はっ!さくら、ちょっと!後ろ!」


慌て出すルッスーリアに指されたほうを見ると、任務から帰ってきたばかりのスクアーロが眉をひそめて立っていた。


「おかえりなさい、スクアーロ」

「…後で俺の部屋に来い」


不機嫌そうにそう吐き捨てた。そこにいつもの覇気はなかった。後でと言われたけど、あんな顔されたら放っておけないよね。すぐさまボスとルッスーリアの元を離れ、スクアーロの部屋に向かった。


「スクアーロ?入るよー」

「う"お"ぉぉい…」

「きゃっ、す、スクアーロ?」

「じっとしてろぉ」


部屋に入るや否や、大きな体に後ろから抱き締められる。ぎゅうっと苦しいくらい強く抱き締められ、後ろにいるスクアーロの顔を見ることは叶わない。


「どうしたの?今日はお疲れ?」

「…俺がいない間に誰と何してたんだ」

「別に何も。私も数時間前に帰ってきて、それからのんびりしてただけだよ」

「…単刀直入に聞く。ザンザスと何してた」

「ボス?何もないってば。ルッスーリアと話してたらボスに声かけられて、花束貰っただけだよ」

「それにしてはえらく嬉しそうだったなぁ」

「だってボスがこんなに大きな花束をくれたんだよ!私なんて眼中にないと思ってたから嬉しいに決まってるでしょ」


やはりボスが私を認めてくれていると考えると、思わず頬が緩む。それと反比例するようにスクアーロの私を抱き締める力は強まる。


「ねぇどうしたの?もしかして、ヤキモチ妬いたの?」

「…悪いか」


いつになく素直な返事に一瞬戸惑った。今日は甘えたい気分なのだろうか。


「ううん、嬉しい。私のこと、それだけ好きってことだもんね。ねぇ、顔見たいから、腕解いて」


軽く腕を叩くと力が緩められる。スクアーロの腕の中で180度体を回し、俯きがちな切れ長な瞳と向き合う。


「私がボスにイケメンって言ったのが気に食わなかった?それとも、花束を貰ったこと?」

「どっちもだ」

「ごめんね。でもスクアーロもボスがかっこいいのは知ってるよね。それに私の1番はスクアーロだから、安心してよ」

「お前は大和撫子のくせに愛情表現が直球すぎだ」

「そんなとこも含めて私を愛して?」

「当たり前だろぉ」


おでこにスクアーロの柔らかい唇が触れる。おでこじゃ物足りないけど、今は我慢しよう。


「あと花束はね、きっとボスは恋愛感情とかそういうのは一切なくて、仲間として認めるってことが言いたいだけなんだと思うの」

「そうだなぁ。今日にミモザってことは、そうも受け取れる」

「女の私でもヴァリアーにいて良いって言われたみたいで、嬉しくって」

「だからあんなに嬉しそうにしてたのか」

「そうだよ。これでヤキモチは治まりました?」


下から顔を覗き込むと、恥ずかしかったのか一旦目を逸らされたが、すぐにまた見つめ返さえれてちょっと強引にキスをされた。


「お前がここに来てからというもの、調子が狂うぜ」

「あら、来ないほうがよかった?」

「そうは言ってねぇぞ。だが、調子狂わせた責任くらい取れよ」


どこから持ち出したのか、スクアーロは私の耳に1株のミモザをかけた。さっきまで両手で私を抱き締めていたよね。こんな時までヴァリアークオリティですか。


「あれ?何か付いてない?」


かけられたミモザの先端に光るリングを見つけた。


「お前は俺のもんってことを忘れるな。俺に守られてればいい。それがお前が女に生まれてきた意味だろぉ」


スクアーロがピンキーリングをミモザから外し、私の右手の小指にはめ、優しいキスを落とす。上目遣いのスクアーロの視線に射抜かれる。

これだからイタリア男にな敵わないんだよね。


スクアーロの熱いキスに応える私の後ろには、部屋いっぱいのミモザが私たちを見守っていた。

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