Never fade away
「ねぇ真子」



私の腿に頭を乗せて横になる真子は目を瞑ったまま「何や」と短く返した。





「私達ってもう死んでるけど、いつか本当に死んじゃう日が来るでしょ」

「そうやな」

「そうしたら私達は尸魂界の一部になるんだよね」

「そうやな」

「でもそれってずっとずっと先のことだと思うの。何十年も何百年も、もしかしたら何千年も先のこと」

「それがどないしたんや」



真子はまだ瞼を閉じたまま私の話を聞いている。視線が交わることなんてないのに、私は真子の目を見つめる。





「そんな長い時間の間に何回人を好きになるんだろうね」

「何回でもええやん」

「真子は私以外の人を好きになるの?」

「お前から聞いてきたんやろ」

「そこは一生お前だけやで、って言ってくれるのを期待してたのに。真子は女心分かってないなぁ」

「男やししゃーないやろ。だいたいお前こそ、もし明日俺が死んだらホイホイ別の男と枕交わすんちゃうか」

「それは真子次第かも」

「どういうことや」

「死ぬ間際に愛してるとか、忘れんといてくれとか言われたら、他の人好きになんてなれないよ。きっと」

「ふーん」

「言ってくれないの?」

「そんな死亡フラグ立てたないわ」



生ぬるい風が真子の長い黄金色の髪と真っ白な隊長羽織を揺らし、私達の頬を優しく撫でた。











その言葉を最後に彼が尸魂界から姿を消すことになるなんて知らずに。















あれから110年ほどの時が経った。

突然消えた彼は、また突然現れた。前触れもなくふらりふらりと彷徨う彼に私は何百年も悩まされてきたというのに、嫌いだと言ってやることができなかった。
隊長羽織を羽織り、長さこそ変わったもののさらさらの黄金色の髪を揺らす。薄い唇から覗く白い歯が懐かしい。





「久しぶりやなぁ、さくら」

「久しぶり、じゃないわよ馬鹿。急に消えて一体何してたの」

「色々や色々」



そう言って昔と同じように私の頬に伸ばしてきた手を私は払い除けた。




「痛った!何すんねん!」

「真子こそ110年も待たせておいて何しようとしてんのよ」

「何って…キスや、キス。そんなん雰囲気から察せ」

「ばっかじゃないの。110年の間に女口説きまくってた奴にキスなんてされたくないわ」

「そんなん110年前から変わらへんで」

「開き直ってんじゃないわよ」



本当は嬉しいくせに強がり。110年間、私だけが思い続けてたなんて思いたくなくて、真子が本当に私のことだけを愛していたのか知りたい。





「久しぶりの再開やっちゅーのに、そんな顔すんなや。しらけるわぁ」

「元からこういう顔なんだけど」

「ちゃうちゃう。俺が110年間忘れられへんかったんは、こういう顔や」



これこれ!と言って私の頬を引き上げる。



「相変わらずええほっぺしとんなぁ」

「いたい!はなしてー!」



意外にも真子は素直にパッと手を離した。予想外すぎて呆気に取られる。いや、離してって言ったのは私なんだけど。



「真子…性格良くなった?」

「アホ。俺は昔から性格ええわ」

「あ、あれでしょ。別の女に手懐けられて優しくなった?」

「俺はお前以外の女を知らんで。性格変わったとしたら、さくらのせいやな」

「またそうやって…」

「嘘ちゃうて。最後に会った日、さくらが一生の間で何回人を好きになるかって聞いたやろ?」

「うん」

「あんときはホンマに何回でもええって思ってた。永遠なんてありえへんし、人の心なんて簡単に離れていくもんやと思っとった。それなのに、笑えるよな?そう言った俺が110年経った今でもさくらだけに夢中や」

「うそでしょ?」

「こんな時まで嘘吐くかアホ。他の女捕まえようと思えばいくらでも捕まえられたのに、お前のせいで他の女に興味すら湧かんかったわ。俺の110年どう責任取ってくれるん?」



ここまで言われて110年の愛を信じないわけにはいかないだろう。思わず瞳が潤む。





「待たせて悪かった。ずっとさくらだけを愛してるで」



今度は拒否することなく、彼の腕を受け入れる。真子は私を胸元へ引き寄せて、ぎゅっと息が止まりそうなほど強く抱き締めた。



「好きや。大好きや。時間が経っても愛しとる」

「私も、愛してるよ。真子」



彼の腕の中で顔を上げると、110年待ち望んだ顔がそこにあった。会えなかった時間を埋めるかのように、降り注ぐ愛を一身に受け止めた。

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