今月も瀞霊廷通信の締切が近付き、俺は書類のチェックに追われていた。
「檜佐木副隊長、お疲れ様です。少し休憩なさってはいかがですか?」
「お、さくらか。わりぃな、気付かなかった」
「いえ、私こそお仕事中に声をかけてしまってすみません。お茶を淹れたので、よろしければどうぞ」
さくらは散らかっている机の僅かな空きスペースに湯呑みを置いた。淹れたばかりなのだろう、白い湯気が上がっている。
「いい匂いだな」
「はい!浮竹隊長から良い茶葉を分けて頂いたんです」
「そりゃ贅沢品だな。じっくり味わわねぇとな」
熱が伝わった湯呑みを持つ。温かいお茶が喉を通るのが分かる。
「はぁー、美味い。茶葉も良いが、淹れ方も良いな」
「あっありがとうございます!!」
湯呑みを載せていたお盆を抱えたまま立っているさくらを見ると、初めて辺りが暗くなっていることに気付いた。
「今何時だ?」
「もうすぐ21時ですね」
「は!?もうそんな時間なのか!」
集中し過ぎていて全く時間を気にしていなかった。そういえば朝食を軽く済ませてから何も食べていなかった。そう思うと急に腹が減った。
「お前はなんでこんな時間まで居るんだ?定時はとっくに過ぎたはずだが」
「そうなんですけど…檜佐木副隊長を一人にしておくと何も食べずに徹夜なさるんじゃないかと不安で」
図星すぎて返す言葉もない。俺の行動は見透かされてるのか。
「お口に合うか分かりませんが、一応お夜食を作っておきましたので良ければ召し上がってください」
そう言ったさくらの視線の先には、綺麗に握られたおにぎりと味噌汁、秋刀魚の塩焼き、そして俺の好物のウインナーが皿の上に盛られていた。
「朝から何も口にしてないように見えたので、お腹が空いてらっしゃるかと思って…」
「さくら、ありがとう。こんなちゃんとした飯食うの久しぶりだ」
自分の仕事はしっかり終わらせ、上司への気配りも申し分ない。こんな部下を持った俺は熟幸運だと感じる。
「ここまでしてくれてありがとな。もう遅いから気をつけて帰れよ」
「檜佐木副隊長はまだお仕事なさるんですか?」
「おう、キリがいいとこまで」
「私もお手伝いします!」
「もういいぞ?帰ってゆっくり休め」
「嫌です!」
いつも謙虚で素直なさくらが珍しく主張するから、一瞬怯んでしまった。
「わ、私は…!誰にでも美味しいお茶を出したり、朝から気を配ったり、ご飯作ったりしてるんじゃないです!」
「ん?お、おう…?」
「もうっ!なんで分からないんですか!!」
初めて見る怒った顔にどうしていいか分からず、混乱する。…怒ってるのに可愛い、なんて口にしたらダメな場面だろうと理性が働き、なんとか口を押さえる。
「とにかく!私もお手伝いしますので、書類ください!」
さくらは有無を言わさず書類の山を奪って、早速仕事に取り掛かる。
「悪いな、担当外の仕事させちまって」
「残業手当とかいらないので、お気になさらず」
「そういうわけにはいかねぇだろ」
「…じゃあ、今度、休みの時に餡蜜奢ってください」
「そんなんでいいのかよ?」
「二人でお出かけしてくれますか?」
「おう、じゃあ今度の休み合わせとく」
そう返すと、さくらがぱあっと花が咲いたように笑った亥三つ時。
「終わったー!!」
背伸びをして、固まった腰や肩を解す。外を見やると、朝日が顔を覗かせていた。
「お疲れ様でした」
「いやぁ、助かったぜ。あと2、3日かかると思ってたんだけど、捗ったわ」
「お手伝いできて良かったです」
「本当悪ぃな、夜通し仕事押し付けちまって」
「私がしたくてやったことだし、それに…」
「それに?」
「檜佐木副隊長と一緒に居れて、嬉しかった…」
ぼそっと小さな声だったが、俺は聞き逃さなかった。
「…期待するぞバカ野郎」
朝日に照らされた二人の顔が赤く染まっていた。
「檜佐木副隊長、お疲れ様です。少し休憩なさってはいかがですか?」
「お、さくらか。わりぃな、気付かなかった」
「いえ、私こそお仕事中に声をかけてしまってすみません。お茶を淹れたので、よろしければどうぞ」
さくらは散らかっている机の僅かな空きスペースに湯呑みを置いた。淹れたばかりなのだろう、白い湯気が上がっている。
「いい匂いだな」
「はい!浮竹隊長から良い茶葉を分けて頂いたんです」
「そりゃ贅沢品だな。じっくり味わわねぇとな」
熱が伝わった湯呑みを持つ。温かいお茶が喉を通るのが分かる。
「はぁー、美味い。茶葉も良いが、淹れ方も良いな」
「あっありがとうございます!!」
湯呑みを載せていたお盆を抱えたまま立っているさくらを見ると、初めて辺りが暗くなっていることに気付いた。
「今何時だ?」
「もうすぐ21時ですね」
「は!?もうそんな時間なのか!」
集中し過ぎていて全く時間を気にしていなかった。そういえば朝食を軽く済ませてから何も食べていなかった。そう思うと急に腹が減った。
「お前はなんでこんな時間まで居るんだ?定時はとっくに過ぎたはずだが」
「そうなんですけど…檜佐木副隊長を一人にしておくと何も食べずに徹夜なさるんじゃないかと不安で」
図星すぎて返す言葉もない。俺の行動は見透かされてるのか。
「お口に合うか分かりませんが、一応お夜食を作っておきましたので良ければ召し上がってください」
そう言ったさくらの視線の先には、綺麗に握られたおにぎりと味噌汁、秋刀魚の塩焼き、そして俺の好物のウインナーが皿の上に盛られていた。
「朝から何も口にしてないように見えたので、お腹が空いてらっしゃるかと思って…」
「さくら、ありがとう。こんなちゃんとした飯食うの久しぶりだ」
自分の仕事はしっかり終わらせ、上司への気配りも申し分ない。こんな部下を持った俺は熟幸運だと感じる。
「ここまでしてくれてありがとな。もう遅いから気をつけて帰れよ」
「檜佐木副隊長はまだお仕事なさるんですか?」
「おう、キリがいいとこまで」
「私もお手伝いします!」
「もういいぞ?帰ってゆっくり休め」
「嫌です!」
いつも謙虚で素直なさくらが珍しく主張するから、一瞬怯んでしまった。
「わ、私は…!誰にでも美味しいお茶を出したり、朝から気を配ったり、ご飯作ったりしてるんじゃないです!」
「ん?お、おう…?」
「もうっ!なんで分からないんですか!!」
初めて見る怒った顔にどうしていいか分からず、混乱する。…怒ってるのに可愛い、なんて口にしたらダメな場面だろうと理性が働き、なんとか口を押さえる。
「とにかく!私もお手伝いしますので、書類ください!」
さくらは有無を言わさず書類の山を奪って、早速仕事に取り掛かる。
「悪いな、担当外の仕事させちまって」
「残業手当とかいらないので、お気になさらず」
「そういうわけにはいかねぇだろ」
「…じゃあ、今度、休みの時に餡蜜奢ってください」
「そんなんでいいのかよ?」
「二人でお出かけしてくれますか?」
「おう、じゃあ今度の休み合わせとく」
そう返すと、さくらがぱあっと花が咲いたように笑った亥三つ時。
「終わったー!!」
背伸びをして、固まった腰や肩を解す。外を見やると、朝日が顔を覗かせていた。
「お疲れ様でした」
「いやぁ、助かったぜ。あと2、3日かかると思ってたんだけど、捗ったわ」
「お手伝いできて良かったです」
「本当悪ぃな、夜通し仕事押し付けちまって」
「私がしたくてやったことだし、それに…」
「それに?」
「檜佐木副隊長と一緒に居れて、嬉しかった…」
ぼそっと小さな声だったが、俺は聞き逃さなかった。
「…期待するぞバカ野郎」
朝日に照らされた二人の顔が赤く染まっていた。
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