死神ってのは人間の何十倍も長く生きるわけで、すでに私も200年ほど生きている。ここまでくると数えるのが面倒で、実際何歳なのかなんて分からない。
だから、死神になって何年とか、彼と付き合って何年とか、そんなのもとうの昔に忘れてしまった。
「昨日よ、阿散井んとこの子供に会ったんだけどさ、すっげーでかくなってた」
「へぇ!子供の成長って早いよねぇ」
「でも、どんどん阿散井に似てってる気がしてよ」
「そのうち大人になればルキアに似るわよ」
二人で人様の子供の話をしながらじゃがいもをつつく。今日は肉じゃがの気分だったから、仕事から帰って仕込んだが、時間が短かったのかまだ少し固かった。
「これあんまり火通ってないね。ごめん、残していいよ」
「そうか?俺は旨いと思うけど」
煮込み過ぎてほろほろになったじゃがいもが好きな私は、まだ固い中の部分を残した。それでも修兵は美味しいと言って、私が作った肉じゃがをペロリと平らげた。
「ごちそうさん」
「お粗末様でした」
「先風呂行ってくる」
「わかった」
修兵はお風呂に向かい、私は食器を手に台所へ。もう何度繰り返したか分からないことやり取りと行動。
同棲を始めた頃は一緒に食器を洗って、一緒にお風呂に入って、一つの布団に体を寄せあって寝ていた。今では一つの布団で寝るものの恋人らしい行為はご無沙汰だし、常にべったりということもなくなった。慣れって恐ろしい。
凡そ50年という時間が二人の関係を冷めさせたのか。
「私はずっと好きなままなんだけどなぁ」
修兵が乱菊さんに目移りしてても、破面に深い傷を負わされても、どんなときも修兵を愛していたし、今も昔から変わらないくらい、いや、昔よりも愛してる。
でも、一方通行な気がして仕方ない。恋次とルキアのほうが恋仲になって日が浅いのに、いつの間にか夫婦になり、子供を作り、一端の家族だ。私達といえば、結婚なんて話をしたこともなければ、子供が欲しいなんて聞いたこともない。私は欲しいんだけどなぁ。
「いくら死神でも出産適齢期くらいあるんだよ、ばーか」
まあ、人間より驚くほど長いんだけどね。
修兵が入ってる浴室に向かってそう呟いた。
すると、浴室の扉がいきなり開いて修兵が顔を覗かせた。
「おっ、そこに居たのか」
「わっ!びっくりした、もうっ」
「それはこっちだっての。まあいいや、呼ぼうと思ってたし」
「なに?石鹸切れた?」
「ちげーよ。もう洗い物終わったのか?」
「うん」
「じゃあ来いよ」
一瞬、修兵の言ってることの意味が分からず首を傾げる。
「だから、一緒に風呂入ろうぜ」
「なっ!?」
「嫌か?久しぶりに入りてぇなって思ったんだよ」
「珍しいね、修兵がそんなこと言うなんて」
「たしかにあんまり言わねぇけどよ、いつも思ってるよ」
優しい顔してそんなこと言われたら、恥ずかしすぎて死んじゃう。しかも浴室から顔を覗かせているのだ、当然裸で、引き締まった逞しい肩や腹筋がチラつく。
「いま、行く」
急いで死装束を脱ぎ、修兵が待つ浴室へ入る。
「二人で風呂入んの何時ぶりだ?」
「えー…どれくらいだろう…10年ぶりくらい?」
「そんなに経つか?」
「感覚的にはそれくらいかな」
一人で浸かるには十分な広さの浴槽に二人で浸かる。窮屈だけど、修兵と体をくっ付けて入るお風呂も悪くはない。むしろ幸せだ。
「なぁ」
私を後ろから抱え込んでいる修兵が、耳元で話し始めた。
「今日阿散井んとこの子供見た時さ、なんつーか…ちょっと悔しかった」
「悔しい?なんで?」
「俺とお前のほうが一緒にいる時間長いのに、阿散井たちに先抜かれた感じがしたんだよ」
それを聞いてはっとした。なんだ、同じこと思ってたんだ。
「俺、もうこの生活が長すぎて現状に満足してたんだよ。一緒に居れるだけで、さくらの手料理食べられるだけで幸せなんだよ」
「修兵…」
「今でも十分幸せだけど、もっとさくらと幸せになりたいし、俺がさくらを幸せにしたい。ちゃんと家族になりたいし、子供も欲しい」
「子供、欲しいの?」
「嫌か?産むのはお前だからお前の意思を優先するぞ」
「そんなことない!私だって欲しかったよ。でも修兵何にも言わないし、子供嫌いなのかなぁって」
「むしろ子供大好きだぜ?目付き悪いからよく勘違いされるけどよ」
「もし赤ちゃんできたら、その子も修兵みたいに怖い目付きになっちゃうのかな?」
「さすがに目付きはさくらに似た可愛い子がいいな」
冗談半分で子供ができたら、を想像してみる。本当は修兵に似た鋭い目の子でもカッコよくて凛々しくて良いと思う。
二人でゆっくりしながら子供の話をしたり、こんな時間が理想だった。こんな平和な時間が幸せだと心底感じる。
「なあ、ここんとこ仕事も落ち着いてきたし、やっと一緒に居られる時間も増えてきたし、そろそろ結婚するか」
「えっ」
「あれ?俺としては待ってたのかと思ってたんだけど」
「待ってたけど、急に言われてびっくりしてる」
「ははっ、そんな顔してる。何十年も前から考えてたんだけどさ、俺なりにタイミング考えてたらここまで来ちまったよ」
「何十年って…遅すぎるよバカ」
「落ち着いたらとか、俺がお前と子供を守れるくらい強くなったらとか、卍解できるようになったら、とかいろいろ考えてたんだよ」
「そっか。そういう考え過ぎちゃう修兵も好きだから、仕方ないな。でもタイミング図った末にプロポーズがお風呂ってどういうこと?」
「幸せな時間だから今かなって思ったんだよ!」
やっぱり考えてるようでどこか抜けてるよなぁ。まあ、そこがかわいいんだけども。背中に感じる逞しい体に凭れると、きゅっと大好きな腕が私を包み込んでくれた。
「よろしくお願いします、修兵さん」
「こちらこそよろしくな、檜佐木さくらさん」
慣れない苗字に擽ったさを覚えると同時に、同じ苗字になれると思うと幸せが込み上げる。ここまで来るのにだいぶ時間がかかってしまったけど、これが私のペースなのだから仕方ないか、と一人で納得してしまう。ルキアたちとは違う、私の幸せの形なのだ。
「ところで旦那さん?この手は何ですか?」
「ん?いや、結婚するって決まったなら子供欲しいなぁと思って」
「確かに子供欲しいとは言ったけども、お風呂でしようなんて言ってない」
「いいじゃん、裸なんだし丁度いい」
「良くないわ!ちょっ、やめ、」
「あれ、前よりおっぱい大きくなった?」
「うるさいっ!」
だから、死神になって何年とか、彼と付き合って何年とか、そんなのもとうの昔に忘れてしまった。
「昨日よ、阿散井んとこの子供に会ったんだけどさ、すっげーでかくなってた」
「へぇ!子供の成長って早いよねぇ」
「でも、どんどん阿散井に似てってる気がしてよ」
「そのうち大人になればルキアに似るわよ」
二人で人様の子供の話をしながらじゃがいもをつつく。今日は肉じゃがの気分だったから、仕事から帰って仕込んだが、時間が短かったのかまだ少し固かった。
「これあんまり火通ってないね。ごめん、残していいよ」
「そうか?俺は旨いと思うけど」
煮込み過ぎてほろほろになったじゃがいもが好きな私は、まだ固い中の部分を残した。それでも修兵は美味しいと言って、私が作った肉じゃがをペロリと平らげた。
「ごちそうさん」
「お粗末様でした」
「先風呂行ってくる」
「わかった」
修兵はお風呂に向かい、私は食器を手に台所へ。もう何度繰り返したか分からないことやり取りと行動。
同棲を始めた頃は一緒に食器を洗って、一緒にお風呂に入って、一つの布団に体を寄せあって寝ていた。今では一つの布団で寝るものの恋人らしい行為はご無沙汰だし、常にべったりということもなくなった。慣れって恐ろしい。
凡そ50年という時間が二人の関係を冷めさせたのか。
「私はずっと好きなままなんだけどなぁ」
修兵が乱菊さんに目移りしてても、破面に深い傷を負わされても、どんなときも修兵を愛していたし、今も昔から変わらないくらい、いや、昔よりも愛してる。
でも、一方通行な気がして仕方ない。恋次とルキアのほうが恋仲になって日が浅いのに、いつの間にか夫婦になり、子供を作り、一端の家族だ。私達といえば、結婚なんて話をしたこともなければ、子供が欲しいなんて聞いたこともない。私は欲しいんだけどなぁ。
「いくら死神でも出産適齢期くらいあるんだよ、ばーか」
まあ、人間より驚くほど長いんだけどね。
修兵が入ってる浴室に向かってそう呟いた。
すると、浴室の扉がいきなり開いて修兵が顔を覗かせた。
「おっ、そこに居たのか」
「わっ!びっくりした、もうっ」
「それはこっちだっての。まあいいや、呼ぼうと思ってたし」
「なに?石鹸切れた?」
「ちげーよ。もう洗い物終わったのか?」
「うん」
「じゃあ来いよ」
一瞬、修兵の言ってることの意味が分からず首を傾げる。
「だから、一緒に風呂入ろうぜ」
「なっ!?」
「嫌か?久しぶりに入りてぇなって思ったんだよ」
「珍しいね、修兵がそんなこと言うなんて」
「たしかにあんまり言わねぇけどよ、いつも思ってるよ」
優しい顔してそんなこと言われたら、恥ずかしすぎて死んじゃう。しかも浴室から顔を覗かせているのだ、当然裸で、引き締まった逞しい肩や腹筋がチラつく。
「いま、行く」
急いで死装束を脱ぎ、修兵が待つ浴室へ入る。
「二人で風呂入んの何時ぶりだ?」
「えー…どれくらいだろう…10年ぶりくらい?」
「そんなに経つか?」
「感覚的にはそれくらいかな」
一人で浸かるには十分な広さの浴槽に二人で浸かる。窮屈だけど、修兵と体をくっ付けて入るお風呂も悪くはない。むしろ幸せだ。
「なぁ」
私を後ろから抱え込んでいる修兵が、耳元で話し始めた。
「今日阿散井んとこの子供見た時さ、なんつーか…ちょっと悔しかった」
「悔しい?なんで?」
「俺とお前のほうが一緒にいる時間長いのに、阿散井たちに先抜かれた感じがしたんだよ」
それを聞いてはっとした。なんだ、同じこと思ってたんだ。
「俺、もうこの生活が長すぎて現状に満足してたんだよ。一緒に居れるだけで、さくらの手料理食べられるだけで幸せなんだよ」
「修兵…」
「今でも十分幸せだけど、もっとさくらと幸せになりたいし、俺がさくらを幸せにしたい。ちゃんと家族になりたいし、子供も欲しい」
「子供、欲しいの?」
「嫌か?産むのはお前だからお前の意思を優先するぞ」
「そんなことない!私だって欲しかったよ。でも修兵何にも言わないし、子供嫌いなのかなぁって」
「むしろ子供大好きだぜ?目付き悪いからよく勘違いされるけどよ」
「もし赤ちゃんできたら、その子も修兵みたいに怖い目付きになっちゃうのかな?」
「さすがに目付きはさくらに似た可愛い子がいいな」
冗談半分で子供ができたら、を想像してみる。本当は修兵に似た鋭い目の子でもカッコよくて凛々しくて良いと思う。
二人でゆっくりしながら子供の話をしたり、こんな時間が理想だった。こんな平和な時間が幸せだと心底感じる。
「なあ、ここんとこ仕事も落ち着いてきたし、やっと一緒に居られる時間も増えてきたし、そろそろ結婚するか」
「えっ」
「あれ?俺としては待ってたのかと思ってたんだけど」
「待ってたけど、急に言われてびっくりしてる」
「ははっ、そんな顔してる。何十年も前から考えてたんだけどさ、俺なりにタイミング考えてたらここまで来ちまったよ」
「何十年って…遅すぎるよバカ」
「落ち着いたらとか、俺がお前と子供を守れるくらい強くなったらとか、卍解できるようになったら、とかいろいろ考えてたんだよ」
「そっか。そういう考え過ぎちゃう修兵も好きだから、仕方ないな。でもタイミング図った末にプロポーズがお風呂ってどういうこと?」
「幸せな時間だから今かなって思ったんだよ!」
やっぱり考えてるようでどこか抜けてるよなぁ。まあ、そこがかわいいんだけども。背中に感じる逞しい体に凭れると、きゅっと大好きな腕が私を包み込んでくれた。
「よろしくお願いします、修兵さん」
「こちらこそよろしくな、檜佐木さくらさん」
慣れない苗字に擽ったさを覚えると同時に、同じ苗字になれると思うと幸せが込み上げる。ここまで来るのにだいぶ時間がかかってしまったけど、これが私のペースなのだから仕方ないか、と一人で納得してしまう。ルキアたちとは違う、私の幸せの形なのだ。
「ところで旦那さん?この手は何ですか?」
「ん?いや、結婚するって決まったなら子供欲しいなぁと思って」
「確かに子供欲しいとは言ったけども、お風呂でしようなんて言ってない」
「いいじゃん、裸なんだし丁度いい」
「良くないわ!ちょっ、やめ、」
「あれ、前よりおっぱい大きくなった?」
「うるさいっ!」
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