鍵の開くカチャリという微かな音に、名前は読んでいた本を閉じて音の主を見やった。
「お疲れー。」
「…まだ起きていやがったのか。」
ツンツンと立てた金髪も若干くたびれ気味に、ゴトリと床に銃火器を降ろした蛭魔は、若干驚いたようにに名前を見る。珍しく疲れ気味な蛭魔の様子にクスリと笑い、名前は軽くあくびをしながらソファーから立ち上がった。
「シャワー浴びてきなよ。小腹空いてる?」
「おう。」
「軽く何か作るわ。」
学生向けアパートにありがちな、狭い台所に向かう名前の表情は少し眠たげで、コンパで遅くなる蛭魔を待って起きていた事が分かる。言葉に出すと嬉々としてウザく絡まれるので、名前の後ろ姿にチラリと目をやるに留め、蛭魔は浴室へと姿を消した。
「もう夜中だし、軽めで作ってみた。」
そう言いつつ名前が出した椀には、ほかほかと湯気を立てる出汁。具はふわふわの卵と人参、玉ねぎ、ちくわ。彩りに小葱が散らされた麺類だった。中の麺はどこか見慣れたような……。
「そうめん?」
「そうデス。料理としては、多分にゅうめん的なモノと称しよう。」
「なんだよ、にゅうめん的なモノって。」
とぼけた言い回しに思わず突っ込むと、頬杖をつきながら名前は眠たげに笑う。
「だって、レシピうろ覚えだし。まあ、胃に優しいのは確かでしょ。」
「確かにな。」
温かい麺を啜ると、ふわりと薄味の出汁が香る。ほっとする味は正直言って旨いが、蛭魔の性格上、決して褒めはしない。
「…お酒は程々にね。」
「おう。」
蛭魔が最後の一滴まで汁を飲み干すと、名前は本格的に眠いようで、あくびを噛み殺したために若干涙目になっていた。時刻は1時を指そうとしている。
「いい加減寝るか。」
「そだねー。そういや明日1限だ……すでに遅刻しそう。」
「先に寝てりゃ良かったんだよ。」
「それだと妖一に会えないじゃないの。」
「…言ってろ。」
照れ隠しに軽く頭を叩くと、名前は幸せそうにふにゃりと笑った。
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