「それ、美味しいのかい?」
きっかけはその一言。小さな疑問、些細な一言。私の中の、大事な一言。
『小倉生クリームサンド』
今日は天気がいい。青い空に白い雲、さらには爽やかな風なんか吹いちゃって。日向ぼっこなんてするには丁度いい。
ついでに言うと、失恋日和だ。なんてったって天気がいい。こんないい日に失恋すれば、落ちた心もきっと晴れる。
「なんてことは…ないよねえ」
誰もいない屋上でフェンスによしかかり、私の中のお昼の定番、小倉生クリームサンドをほうばりながら1人で考える。何故屋上に誰もいないのなんて考えはこの際無視だ。
片思い歴2年半。積りに積もった気持ちと共に「好きです」という言葉を愛おしの想い人、大和猛くんにようやく伝えたのだ。が、結果は上記の通り。失恋だ。
きっかけは本当に些細だった。
遡ること2年半前。
午前の授業が終わり眠気覚めやらぬ中、私は昔も変わらず小倉生クリームサンドをお昼ごはんに、友達とだらだらお喋りをしていた。
昨日のテレビがどうだ、とか。あの俳優がどうだ、とか。とにかくどうでもいい話題だった。しかしそこで多少の違和感。どこからか視線を感じたのだ。あたりをキョロっと見回すと、同じクラスのアメフト部のエースにして爽やか濃口イケメン、大和猛くんと目があった。彼については同じクラスであること、あとちょっとかっこいいなぐらいにしか思っていなかったし、話したこともなかった。
ゆえ、熱い視線を浴びさせられる理由も思いつかず。とりあえずそのまま目を逸らすのも失礼な気がしたので、しばらくみつめあってみた。すると彼は席を立って私に近づき、一言
「それ、美味しいのかい?」
ほんとにそれだけ。たったその一言で、何故か彼は私の中のセキュリティをかいくぐり、見事に私の心を掴んだのだ。
どうやら小倉生クリームサンドというものが彼の日常生活においてはなかなか登場しない食べ物のようで。とても気になっていたようだった。
心臓がドキドキして、顔が赤くなるのが分かった。それでもなんとか
「え、あ、え、うん、おいしい」
なんてカタコトな日本語で返答をし、ことなきを得たのだが、それから彼は同じクラスのアメフト部エースにして爽やか濃口イケメンではなく、好きな人、というカテゴリーに配属されたのだった。
それからずっと、今日まで、正しくは今日の午前中まで片思い。告白はありきたりだが屋上に呼び出して単刀直入
「好きです。付き合ってください。」
しかし彼の返答は
「気持ちは嬉しい。ありがとう。ごめんね。」
なんとも虚しい。きっかけは微妙だったが、この2年半で彼の色々なところを知った。本当に好きだったのだ。
「………」
なんだか泣けるなあなんて思いながら小倉生クリームサンドをほおばって涙が出ないように力をいれる。
幸い今日は天気がいい。青い空に白い雲、爽やかな風まで吹いている。おまけに今日も小倉生クリームサンドが美味しい。
ならそれでいい。今はそれでいいのだ。
きっと大和くんを好きな気持ちはまだあって、忘れるのに時間はかかるだろうけど。
小倉生クリームサンドを食べながらゆっくり忘れられればいいなあ、と思うのでした。
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