「でぇぇぇっきたぁぁぁああああ!」
無残に裂かれた薄焼き卵、細く切られた海苔の残骸、きれいにくり抜かれたハム。
キッチンに残された格闘の跡とその中心に置かれたお弁当箱を名前は満足そうに見て言った。
「やっべこれまじ私天才じゃね?!ちょ、携帯!写メ、写メんないと!」
名前は急ぎつつも寝ている蛭魔を起こさないように音を立てずに走って行った。

「ひっるっまっさーん!」
「あぁ?うあっ!?」
朝のコーヒーを飲んでいた蛭魔は上機嫌な名前の声に振り返った。
んだよ朝からキモイ呼び方しやがって…。
と、文句を言おうとする前に、ズイッと目の前に四角い包みが突き出された。
「おいこら何の真似だ、糞名前。」
「え?何の真似って?いやいや、あれじゃないですか、あれ、あの、愛妻弁当、的な?」
「じゃぁなんで目が合わねーんだ。」
ずっとそらされたままの視線に蛭魔が問う。
今にも吹き出しそうなのを必死でこらえた笑みを浮かべて名前はもう一度包みを突き出した。
こいつ、ぜってー何か企んでやがる。
探るように顔を覗き込もうとすると、今度はあからさまに顔を反らされた。
そして何も言わずにひたすら受け取れと押し付けてくる。
チッ、こーなったら受け取るまで引きやしねーな。
蛭魔は諦めたようにため息をつくと、それに手を伸ばした。
「食えねーモンは入ってねーだろーな。」
受け取ってくれると分かった名前はぱあああと顔を明るくして勢いよく頷いた。
「おうともよ!もちろんだ!むしろ栄養バランスを考えてやったわ!」
んなことでイイ笑顔してんじゃねーよ、こっちもちょっと嬉しくなんだろクソッ。
そう思いながらも正直に言うのは癪に障ると蛭魔はいつも通りニヤリと笑った。
「ほう?じゃ、とりあえず胃薬持っていくか。」
「なんでか!」
素早くツッコミながらも名前はやっぱり嬉しそうにカラカラと笑った。

「蛭魔ぁ〜、お昼食べよ〜。」
おっひる〜おっひる〜と毎日飽きもせず笑顔でスキップ?してくる栗田に蛭魔はガシャンと銃を突き付けた。
「あぁ?!糞デブ今日の昼は部室でミーティングだっつっただろーが!」
「そーだそーだ!今日はみんなでご飯なんだ!」
と珍しく横から名前が参戦する。
いつもなら昼はジャンプを読む時間だからとか言ってサボりたがるコイツが珍しい…。
一瞬考えた蛭魔は、チッと大きく舌打ちをして手近な椅子を蹴飛ばした。
俺としたことがミスった。今日の昼は怪しげな弁当じゃねーか、クソッ。
しかも乗り気ってことは他人に見られて面白い類のモンか…。強烈に行きたくねぇ。
そうは思ったものの、自分が言い出したミーティングに行かないわけにもいかない。
しゃーねぇ、弁当は後で食うか…。
ため息をついて立ち上がろうとした瞬間、
「わぁ!蛭魔!今日は蛭魔もお弁当なんだねー!!」
「あぁん?!」
上機嫌な声にピクリと眉をあげる。
「カバンの中のそれ、お弁当でしょー?もしかして名前ちゃんの手作りー?」
「さすがりょーかん!朝から頑張ったんだぜー?」
「へぇ、楽しみだなぁ〜。いいなぁ蛭魔は名前ちゃんがおいしいお弁当作ってくれて。」
「ふふふ、りょーかんよ、褒めても何も出んぞよ?」
糞糞糞糞馬鹿共が!勝手に盛り上がりやがって!!
弁当を持っていくしかなくなった蛭魔は二人の視線から奪い取るように弁当を持って教室を出た。

「つーわけで次の恋ヶ浜との練習試合、ランは前半オール温存。テメーらで自分のできっこと見つけやがれ!!」
「「「「「「おぅっ(フゴッ)!!!!」」」」」」
一年ズの元気な返事でミーティングが締まる。
ほっと和んだ空気の部室にいち早く和食のいい香りが漂った。
「相変わらず栗田先輩のお重すげぇっすね。」
「うんー。いっぱい食べないと力出ないからねぇ。けど、今日は蛭魔のお弁当の方がすごいと思うよ〜?名前ちゃんの手作りなんだもん。」
のほほんとした声で栗田が爆弾を投下する。
一瞬、シンと静まりかえった部室に蛭魔の盛大な舌打ちが響いた。
「は?」
「はぁ?」
「はぁぁあああ?」
そっぽを向いて舌打ちをした蛭魔を照れととった三兄弟が声を上げた。
「なんだよ、結局マジでリア充してんのかよ。」
「おい、早く見せろって、セナ、それ開けろ!」
騒ぎ出す部員達を見て、名前はにんまりと笑った。
はぁ…。本気でこいつら後で撃ち殺ス!!!!!
あー、今撃たねーのは、クッソ、視界の端で嬉しそうにしてやがるのを壊したくない…いや、めんどいからだ。可愛いからじゃ断じてない。
蛭魔はもう一度舌打ちをすると周りを睨んで退かせた真ん中にドンと包みを置いた。
「さぁ!皆、よく見ろ!美少女主務、名前さんの超!愛妻弁当だ!!!」
蓋をあけるのに合わせて上機嫌な名前の声が響いた。
ゆっくりとそれを開けると…
「っっっ!!!!!」
「うわ!何だこれすっげぇ!!」
すごいすごいと声を上げる部員の中で蛭魔は一人固まる。
そこにあったのは、アメフトボールを掲げた蛭魔の姿。
そう、それはいわゆるキャラ弁というやつだった。
「すっごいだろー!この蛭魔超イケメンじゃね?むしろ本物よりイケメン?」
嬉しそうにする名前はもう調子に乗って好き勝手な事を言っている。
朝からガチャガチャやってると思ったらこれか。
蛭魔はもうアホらしくて声も出ないというように溜息をつく。
しかしなかなかまんざらでもない。
そうか、名前の眼に俺はこういう風に映ってるわけだな。
名前の言うように、精一杯かっこよく描かれている自分に、蛭魔はニヤケる口元を隠す。
そして、ケケケといつも通りの笑みを浮かべると、皆の中心で騒いでいる名前の首に腕をまわしてグイと引き寄せた。
「わっ!な、なんだよ、蛭まっ…」
「おい。糞名前。」
わざと耳元で小さく囁く。
「本物の俺はもっとカッコいいだろーが。」
「―――っ///」
みるみるうちに耳まで真っ赤になっていく名前。
ま、仕返しはこんなもんで許してやっか。





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