「ふっ…ぅ、…っ…。」
「テメー、いつまでメソメソしてやがる。」
「だって、だって、だってーー!!」
「うっせぇ!!何度も言わなくても聞こえてんだよ!!」

こんな風にメソメソするのは私の性格ではないし、むしろそういう風にウジウジするのは嫌いな方だ。
だからこそもしかしたら目の前彼氏様も困惑してるのかも…いや、あり得ない。こいつは困惑なぞしない。
まぁ、んなことはどうでもいい。今はそれどころではないのだ。

「泣くほどのことでもねぇだろうが。」
「だって…自信作だったのに…ちょっと目離したら…。…自信作だったのにぃぃぃ!」
「はぁ……。」

料理は得意かどうか分からないが好きだ。美味しそうに食べてもらえるならそれこそ嬉しいし、美味しく出来たものを自分で食べるのも幸せ。
しかし、今回の途中まで中々良い感じだったカニクリームコロッケは少し目を離した隙にダークマターに変わってしまっていた。

『夕飯作ってあげるから!』

蛭魔に満面の笑みでそう告げた。そう、自分でそう告げておきながら…なんたる失態。
それに…蛭魔は私がそう言った時右眉を上げて少しだけ笑ってくれたのだ。そんな風な反応は滅多にしてくれないのに…だから失敗したことより、どちらかと言えば蛭魔に手料理を食べさせられないことにひどく落ち込んでいた。

「…ごめんね、蛭魔…。」
「食えねえわけじゃねぇだろうが。おら、さっさと皿に乗せろ。」
「え?でも…。」
「さっさとしろってのが聞こえなかったのか、糞名前。」

中々動こうとしない私に痺れを切らしたのか蛭魔は自らキッチンに言って割と黒いクリームコロッケを皿に乗せ戻ってきた。
…これは本当に蛭魔なのだろうか。彼は失敗した料理など食べるキャラではないと思っていたのだが。

「腹減ってんだよ。さっさと座れ。」
「…え、あ、まっ、待って。他のおかずもあるから。」

サラダや他のおかずを皿に盛ってリビングに戻る。テーブルにおいてから蛭魔の向かいに腰掛けたが未だ目の前の人が蛭魔だとは信じがたい。
だがそんな私を他所に蛭魔は黒く焦げたコロッケを食べ始めた。
はっきり言ってあんまり食べて欲しくない。焦げた部分は体に良くないし、美味しくないものを無理して食べる彼氏だって見たくない。もったいないが、捨ててもいい位だ。

「…ねぇ、蛭魔…無理して食べなくても…。」

そう言いかけたが、食べようとして下を向いたままこちらを見上げた蛭魔の上目遣いにぐっ、と言葉が詰まる。
持ち上げていた箸を降ろして蛭魔は呆れたように顔を上げてから私をじっと見つめて口を開いた。

「俺が無理して食事するような男だと思ってんのか、テメー。」
「思ってなかった、けど…食べてるじゃん。」
「……はぁ。…1から全部言わねぇとわかんねぇのか。」

蛭魔はわざとらしくもう一度ため息をつき食べるのを再開した。
え、1から言ってくれないのか。

結局、食べ終わるまで会話はなく私はごちそうさま、と手を合わせた。コロッケは焦げてはいたものの…まぁ可もなく不可もなくという味だった。微妙だった。なのに、テーブルの上の皿には何も残っていない。

「…蛭魔。」
「あんだよ。」
「ありがと。」

私の言葉に蛭魔は少し驚いたようにこちらを見て…フッと優しく笑った。てっきりぶっきらぼうに返事をされるか、銃を向けられると思っていた。なのに、そんな優しく笑われては…どうしたらいいか分からない。

「…あの、さ…また作るね…///」
「…失敗すんなよ。」


ーお前が作ったものなら、どんなものでも食べたいなんて、





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