「わ、もしかしてそれ全部名前姐が作ったのっ?!」
「そー、たまには彼女らしく頑張ってみました!」
「すごーい!」
「なんてね、おかずの半分は冷凍食品だし、まもちゃんみたいなのは私にはできないや。」
「えーでも、彼女に作ってもらえる時点で男としては嬉しいもんだぜってコタ先輩が言ってましたよ!」

二人の会話を邪魔しないよう、控えめに「いただきます」と口にしてから、左手に持ったおにぎりをぱくりと頬張った。

(ん、今日もしゃけだ…。)

前に、おにぎりの具ならしゃけが好きだと僕が言ったからなのか、最近名前さんが作ってくれるおにぎりは具がしゃけである事が多い。

「コタ‥って佐々木くん?」
「そーです、コタ先輩っていっつもジュリさんの作ったお弁当食べてて。私に『お前も早くお弁当作る相手作れよ』とかフツーに言うんですよー。」

いつもはそうでもないけど、休憩時間や講義の終わった後に時間をもて余したこの二人が一緒になると、いわゆる"女子の会話"になる。

「‥ジュリさんてミス炎魔の‥?え、あの二人よく一緒にいるのは知ってたけど付き合ってたの?」
「名前姐知らなかったの?あの二人、元々幼稚園からの幼馴染みらしくて、ジュリさんが高校の時にマネやってたのもコタ先輩が誘ったからみたいですよ。」
(今日はコータローさんか。)

昨日は雲水さんの噂話、その前は栗田さんの将来の話(家を継ぐとか継がないとか)をしていた。名前さんと鈴音の前では関係ないことなんて一切なくなってしまうらしい。食べながらだと二人の会話に口を挟む隙間を見つける事すら難しいため、とりあえずはお弁当箱を空にするためにもぐもぐと口を動かした。

「えージュリちゃんてあの最京大のギターのイケメンと付き合ってるのかと思ってた。なんで佐々木くん?」
「それがなんか、去年のミスコン関係でジュリさんに嫌がらせしてた人達をコタ先輩が一人で全員シメて、それがきっかけで付き合った、って。」
「ああ、助けてもらって身近な人が急に格好良く見えちゃったんだ、でも佐々木くんねー…。」

てらてらと光を反射するとろみのついたソースがたっぷりと絡んだ肉団子と、玉子焼きを一緒に口に運べば、薄い味付けの玉子焼きに甘口の肉団子のソースがよく絡み、口の中で混ざり合った。次いで白菜と柚子のお新香を口に入れれば、肉団子のソースで甘くなっていた口の中がさっぱりする。

(‥あ、ポテトサラダにグリンピース入ってる‥肉団子と一緒に食べてのみ込も‥。)
「あれでコタ先輩のノロケが酷くなきゃ、私は別にいいんですけど。もーしょっちゅう"ジュリのお弁当はうまい、鈴音もこれくらい作れるようになれよ"とか言ってきてっ!」
「鈴ちゃん、お疲れ‥前々から思ってたけど、佐々木くんってちょっと残念な人だよね。石丸くんみたいなニオイがする。」
「名前姐、それは流石にコタ先輩が可哀想‥。」
「いや、石丸くんのが地味だけどさ。」
「その話、絶対コタ先輩に言っちゃ駄目ですよ、へこむと色々面倒くさそうなんで。」
「あはは、鈴ちゃん正直!あ、そー言えばさ、来週の月曜にまもちゃんと夜御飯食べる約束をしてるんだけど、鈴ちゃんも行かない?」
「え、なにそれ行きたいっ!最近まも姐に会ってないって思ってたんですよー!」
(ん、休憩あと15分だ‥)

とうとう、お弁当箱に詰められていたおかずが空になって、残ってるのはしゃけおにぎりがひとつだけ。一口、二口。もぐもぐと咀嚼して、三口、四口。もぐもぐもぐもぐ、ごくん。やっぱりおにぎりはしゃけが一番好きだ、なんて思いながら最後の一口をのみ込んだ。

「じゃ、鈴ちゃんも行くって伝えとく。場所はまだ決めかねてるからちゃんと決まったら連絡するね。」
「りょーかいですっ!うー、楽しみっ!」

ごくごくとお茶を飲んでから手を合わせ、名前さんに向かって口を開いた。

「名前さん、ごちそうさまです。」
「ん、お粗末様。午後練もケガに気をつけてね。」
「はい。あ、それで、あの、今日のおにぎり、すごく美味しかったんで、出来れば、その、また作ってもらえないかな、って、思ってたんですけど…。」
「え?あ、うん、分かった。」
「よ、良かった‥!じゃあ、僕、そろそろ、行ってきます!」
「いってらっしゃい。」

昼休憩を切り上げるのが思ったよりも遅くなってしまって、慌てて鞄を掴んでその場を離れた。
名前さんが茹で蛸みたいに真っ赤になっていた事を、鈴音から聞いたのはそのすぐ後の部活中のことだったけど、それはまた別の話。


「名前姐、顔真っ赤!」
「鈴ちゃん、私、また作って、なんて初めて言われた‥!‥‥やばい、今スッゴい嬉しい‥‥!」
「ね、名前姐、一言だけ言ってもいい?」
「‥‥どうぞ。」
「リア充爆発しろ!」






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