キーンコーンカーンコーン

泥門のお昼を告げるチャイムが鳴る。

「厳ちゃん。今日もあの子来るだろ?
俺たちも休憩にしようぜ」

そう言って,お昼休憩を提案してくる仲間。

「悪いな」

「いやいや,俺たちだって休憩したいしな」

「分かった」

よし,休憩だ。
そう思ったときだった。

「げーん」

遠くから子供のような奴が走ってきた。
片手にお弁当を持ちながら。
あんなに振り回したら,今日もあいつの弁当は酷い事になってるな。

「名前,弁当を振るな」

「あ...。」

やってしまったと言った感じで手に持った弁当を眺める名前。
その姿になんとなく,口許が緩むのが分かる

「弁当食うんだろ?」

「うん」

最近定番のこのやり取り。
遠くから視線を感じつつあるが,まぁ,いいだろう

「今日はね,タコさんウィンナー作ったの
はい,これ厳のね」

近くの木陰に腰を下ろしながら,嬉しそうに弁当を見せてくる

「ありがとうな」

照れ臭いなんて思いつつも顔には出さずに受け取る。


名前と俺は別に恋人という訳ではない。
ただ学生時代,アメフト馬鹿で浮いている俺達3人の元に唯一寄ってきたのが名前だ。

けど,俺が泥門を辞める時に名前との縁は切れたはずだった。

たが,ヒルマに部室の改造工事やら何やらの依頼で泥門によく来るようになったと知った名前が,昼休みになると弁当を持ってくるのだ。
律儀に俺の分まで作って。

「やっぱり...」

名前の呟きが聞こえて横を見れば,弁当を眺めて落ち込んでいる。
まぁ,その弁当は案の定ぐちゃぐちゃなわけだ。

横から手を伸ばして卵焼きを取って口に入れる

「美味い」

そう言えば,途端に彼女の頬は緩む。

「厳のにも入ってるのに」

「美味そうだったからな」

「もう」

口調は怒ってるのに,顔は笑っている。
子供みたいに笑う名前が俺は好きだ。

「毎日,毎日悪いな」

「私がこうしたいだけだもん!」

「そうか。」

「うん!」


俺が泥門に居たとき,
名前はいつも空き教室の窓際でご飯を食べていた。
陽射しが丁度いい。
その場所が名前のお気に入りだった。

「空き教室で食うのは辞めたのか?」

「...空き教室だと厳は入れないでしょ?」

我ながら呆れる質問だ。
俺が居たら,あそこで食べれるはずがなかった。

「すまん」

「落ち込まないでよ」

「でもな...「空き教室が1番だって思ってるなら,ここに居ないよ?
今は厳の横が1番だから」

「そうか」

嬉しくなって,名前の頭を撫でる。

「照れてるー!」

ケタケタと笑う名前はやっぱり子供みたいだ。
そこが,良い訳だが。

「いつか...」

「?」

「いつか,また,あそこで一緒に食べれたらいいのにね」

悲しそうに眉を寄せる名前を見て,少し息苦しくなる

「なーんてね!
授業始まるから行くね,また明日」

トコトコっと駆けていく小さい後ろ姿を眺めながら歯痒く感じる。

「ごめんな」

そんな後ろ姿にそっと呟く。

また明日,名前は笑って俺の元に来るのだろう。
工事が終わる日まで...。
けど,名前が...俺が望む日は来ない。


小さな背中が見えなくなったのを確認して仕事に戻る。
胸にわだかまりを抱えながら...。







暑苦しい夏の暑さが消えた頃に,
空き教室の窓際でお弁当を食べながら勉強会をする2人が居ることが当たり前になるのはもう少し先のお話。






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -