私の弟、陸は大変イケメンな部類に入る男子高校生である。
顔つきは勿論、学力、運動神経、服のセンス、女の子の扱いまで隙がない。
性格も多少カッコつけではあるけど、曲がった事はやらないし大人びた言動の中に熱血な部分も持ち合わせていて、家族としてのひいき目を抜きにしても、正直こいつを嫌いになる要素は無いのではないか…とすら思う。

敢えて…敢えて勿体ない部分をあげるとするならば、未だ伸び悩んでいる身長と


「陸ーーー!!いい加減起きてよ!もう朝ごはんがお昼ごはんになっちゃうよー!!」


この、普段の性格からは考えられない程の寝坊っぷりなのだろう…



─シナモントースト─



部屋のカーテンを全開にし、ベッドの上でスヤスヤと寝相良く寝ていたのを全力で揺さぶってようやく陸はうっすら目を開けた。

「…はよ…」
「おはよう。もう10時半だよ?」

部活がオフの日だろうと、大抵はいつも通り朝早く起きてランニングしたりするのだけど、どうやら昨晩は遅くまで起きていたみたいだ。
2階の自室から下りて顔を洗い、それでもまだぼんやりしている陸は、寝癖がついたままリビングの椅子に座る。

「何食べる?」
「んー……すぐ昼飯になるんだろ?じゃあコレでいいや…」

言いながら、陸はテーブルの上にあったコーンフレークの箱を掴む。チョコの輪のやつだ。
ご飯作る側の私としてはラクなので、冷蔵庫から牛乳を取り出し、後は陸の好きなようにさせた。

「コレさ、食べた後のチョコ牛乳が旨いよな」
「わかる!なんかいいよね」

しばらく私が観てるテレビの音と、陸のザクザク食べてる音が響く。
すぐに食べ終えた陸が口を開いた。

「…名前姉」
「ん?」
「やっぱ足りない」
「あれだけ山盛りで食べたのに?!」

まあ食べ盛りのお年頃だからね。そりゃ物足りないよね。
何かもうちょっと食べたいとねだる陸に、私は仕方なく立ち上がり、キッチンに置いてあった食パンに目をつけた。

軽くバターを塗ってトースターで程よく焼いた後、シナモンシュガーを適当に振りかける。
シナモン独特の香りが鼻をくすぐってきて、私まで食欲が沸いてきた。
ついでにコーヒーでも…と思ったら、キッチンに陸がひょこっと顔を出す。

「あ、うまそ」
「いいところに!コーヒー入れて」
「ん」

目の前にご飯をぶら下げられた欲の為か、陸は素直にコーヒーを入れてくれた。
ふわりとコーヒーの香りとシナモンの香りに包まれながら、第二の朝ごはん。

「名前姉も食うの?」
「陸のせいで私もお腹空いたんだもん!太ったら陸のせいだから」
「知らねー。ていうか前まではシナモン駄目だったのにな。」
「そうだっけ?何か目覚めちゃったんだよねー。前に陸が作ったシナモントースト食べさせてもらったのがきっかけだったかも」

陸もそうだっけ?と言いながらコーヒーを一口飲んで、コーンフレークで甘くなった口の中に広がる苦さにちょっぴり顔をしかめた。

「そんじゃいただきます」
「いただきまーす」

二人で同時にかじりつくと、ザクッと音をたてるトースト。パンの香ばしさと、バターのまったり感と、シナモンの香りがまとめてやってきた。たまらない。

「おいひー!」
「んむ…」

折しもテレビからは今日の天気は行楽日和とアナウンス、窓から差し込む気持ち良さそうな日光。
これ程贅沢な朝があるだろうか?いや、無い!

「天気いいし、どっか行く?」
「んー…どこも人多そうだしなあ…名前姉に任せる。ちなみに昼飯なに?」
「はあ?!もう昼ごはんの話?!ひいぃ完食してるー!!!」

弟の無尽蔵な胃袋に震えながら、時計を見れば11時過ぎ。

「じゃあ…お昼食べたら、夕ごはん用に陸の好きなやつ買い物行こうか!」
「結局出先はスーパーかよ」

私の提案に笑った陸は、機嫌良く食器を片付けてくれた。
テレビに目をやれば、地元のローカル番組が近くの商店街特集をしている。焼肉用の牛肉激安セールの情報を目にした私と陸は、互いに目を合わせると直ぐさま立ち上がって出かける準備を始めた。

シナモントーストを優雅に食べていた午前中はどこへやら。
食べ物に左右された私たちの休日は、賑やかに過ぎていくのだった…





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