油断してると思った?
――愛しくて抑えがきかない
きっと疲れきってしまったのだろう、体力の差は歴然としているのについいつも無理をさせてしまう。
せっかくの休暇だ。千鶴が眠っている間に剣の鍛錬を終えてしまおう、そう思い立ち沖田は一人庭へ出た。
空はぬけるような青空でこの季節にしては暖かな日差しが優しく素肌を包む。
どうせこれからまた汗をかくのだから、そう思い上半身は何も身に付けないまま愛用の刀を手に取ると、冷たい無機質な感触が昂ぶった心と身体を鎮めてくれる気がした。
(あれ以上啼かせるのは…さすがに可哀想だしね)
求める気持ちは日々強くなる。
このままだといつか彼女を壊してしまうのではないか、そんな不穏な想像に思わず苦笑が浮かぶ。
けれど仕方ないだろう…
何もかも可愛すぎる千鶴が悪いのだから。
今堪能してきたばかりの愛らしくて淫らな姿から無理やり意識を逸らすと、沖田は黒い愛刀を平正眼に構えた。
攻防一体、敵の刀をかわしながら瞬時に敵の喉元を狙いにいく構え、これは剣の師としても敬愛してやまない近藤から教わった技だ。
美しい片眼をすっと細め、心身を研ぎ澄まして神経を切っ先に集中する。
ゆっくり目を閉じると風で舞い落ちる木の葉の音まで明確に捉える事ができた。
(ふうん、また…か)
口元に冷笑。
剣先が陽の光を受けきらめきながら反転したかと思うと、背後で呻き声と人の倒れる鈍い音が響いた。
芝生の緑に赤い染みがゆっくり広がる。
「油断してると思った?」
くすくす笑いながら呟くと沖田は刀を一振りし鞘に戻した。
恨みをかうのは日常茶飯事で、こんなふうに襲撃されるのも慣れている。
むしろこうして命のやり取りをする事は生を実感させてくれる楽しい遊びでしかない。
「ただ後始末が面倒なんだよね」
きっとまた井上にお小言をもらってしまうだろう。
「まあ…いいか」
血の匂いが地面から立ち上り身体にじわじわと纏わり付く。愛しい少女の元へ戻る前に洗い流しておかなくては。
行為の最中の艶やかな表情からは想像も出来ない幼子のような寝顔を想う。
殺伐とした日々の中に咲いた白い小さな花。
大切に守って優しく慈しんであげたい…
けれど誰かを手に掛けた日は身の内から何かが溢れ出して止まらなくて。
「ごめんね」
ああ――きっと今夜も我慢なんて出来ないのだろう。