元々バトルの才能なんてなかった私が、それこそ血のにじむような努力をして手に入れたスーパーシングルでのサブウェイマスターとのバトル。
やっとここまで来たのだと感激もひとしおで、バトルもまだだっていうのにノボリさんの顔を見ただけで達成感を覚えていた。
これまでシングルトレインや駅構内で何度も会っているのに、まるで感動が違う。
ノボリさんは何度も愚痴を吐く私を励まして、どう戦えばいいのかアドバイスをしてくれてた。
正直私一人じゃとっくに諦めてバトルサブウェイに来なくなっていたと思う。
こうやってスーパーシングルの7両目まで来ることができたのは、根気強く私に付き合ってくれたノボリさんのおかげだ。
「お待ちしておりました、なまえ様」
「はいっ、やっとここまでたどり着けました!」
だから、スーパーシングルでノボリさんとのバトルが叶ったら感謝の気持ちも込めて私ができる最高のバトルをしようと思っていたわけだけど。
「ところでわたくし、バトルサブウェイとSMクラブは似たような物だと思うのです」
モンスターボールも構えず、ノボリさんがわけのわからないことを言い出した。一瞬あまりの嬉しさでおかしな幻聴でも聞こえたのかと思ったけど、ノボリさんは私が聞こえなかったと思ったのか律儀にもう一度くり返してきてあっさり私の希望を打ち砕く。
「わたくしバトルサブウェイとSMクラブは似たような物だと思うのです」
「似てませんよ似てる要素皆無ですよ!」
思わず突っ込んでしまった。
何なんだ、スーパーシングルではバトル前にこんな挨拶をしてるのかノボリさん。
もしかして私が知らないだけ?
それとも緊張している私を和ませようとわざとおかしなことを言ってるの。
「肉体的にいたぶられるか精神的にいたぶられるかの違いだけでございましょう」
何をわかりきったことをとでも言いたげに説明されて、予想のどちらもが外れなのだと悟る。
こんな会話が定型句や気づかいであってたまるか。
「いや初めて聞きましたからそんな極論!」
「極論というほどでもございませんが」
「十分極論ですよ、ていうかどっちがどっちなんですか」
「肉体的にいたぶられるのがSMクラブ、両方いたぶられるのがバトルサブウェイでございます」
「まさかの3択問題!?」
しかしそこだけ聞くとどれだけ恐ろしい所なんだバトルサブウェイ。
SMクラブにも勝るバトル施設なんて聞いたことがない。
「であれば、バトルサブウェイに来る廃人の皆様は真性のドM」
「それはあながち否定できない!」
正直バトルサブウェイにはびこる廃人のほとんどはセルフM状態だ。
利益らしい利益も出ないのに厳選やら孵化作業やらに励む姿は、もうその行為自体がご褒美なんじゃないかと思う。
というかそう思いながら私はそれらの作業に励んでいた。
私の同意にそうでしょう、と頷きながらノボリさんが続ける。
あれ、私ここに何しに来たんだっけ。
「さしずめわたくしはどドMな廃人様方をど突き回すドSマスターと言った所でしょう」
「ああ間違ってはいないかも!」
「そう、つまり何が言いたいのかと申しますと」
「え、この流れ前フリだったんですか」
それじゃあやっとバトルをしてくれるのだろうか。
そうだ、私はスーパーシングルまでわざわざノボリさんとこんな馬鹿な話をするために勝ち上って来たんじゃない。
ノボリさんとバトルをするためにここまで来たんだ!
ちょっと忘れそうになったけど!
しかしノボリさんは別にバトルの前フリとして話題を振ったわけではないらしく、出発進行!と宣言する時のキリッとした顔つきで私に提案してきた。
「ドSなわたくしとドMななまえ様は相性抜群。さあ、わたくしとこの座席という名の愛のベッドで一戦交えようではないですか!」
「すみませんリタイアで!!」
迷わず緊急停止ボタンを連打した。