「この曖昧な関係を打破するため、今からわたくし再び貴女様に告白しようと思います」
いつものようにソファでくつろいでいたら、ノボリさんが急に正座で何か言い出した。
曖昧な関係というのは私も気になっていたけど、今更それを打破とか言われてもピンとこない。
「はいどうぞー」
「つきましては、返事は『喜んで』一択でお願いいたします」
「はいはい茶番乙ですこのヘタレ」
適当に聞き流しながら煙草に火をつける。
いつもならケースを持ったところでノボリさんがホストよろしくライターを差し出してくれるんだけど、今は緊張しているからか正座のままガチガチに固まって動かない。
茶番みたいな告白に何をそんなに固くなることがあるんだか。
しかし、ノボリさんにも思う所はあるようで。
「1度告白して流されているわたくしの身にもなってくださいまし!これでまた流されでもしたなら、わたくしもう立ち直れません!」
流したつもりはないんだけど。
私は1度きっぱりとお断りをしたはずだ。
それがまあこんなぐだぐだな関係になってしまっているのは、ひとえにノボリさんの押しの強さがあったから。
傍から見ればストーカーまがいから押しかけ女房を経て友人にって所だろうか。
実際、もう1度告白をされてもまた以前のようにお断りができるのかと言えばかなり微妙だ。
立ち直れないと公言されているだけに、断ってしまったらもう2度とノボリさんはここにこなくなってしまうのかもしれない。
それじゃあ私が生きていけないのに。
後輩に指摘されたように、ノボリさんがいないとストレスが溜まるのだ。
ここまで依存するようにノボリさんが仕向けたのかと考えると空恐ろしいものがあるけど。
考えすぎだと一蹴できないのがまたノボリさんらしい。
「わかりました。ちゃんと受け止めますから」
「本当でございますか!?」
「いえ、答えがYesとは限りませんけど。ノボリさんも男なんですから、当たって砕けてくださいよ」
「砕けるのが恐ろしいからこうして前もって伝えているのではないですか…」
ここまでぶっちゃけてから改めて告白しても、同情から承諾されたとか思ったりしないんだろうか。
まあノボリさんからしたら言質さえ取れればいいんだろうけど。
あとは、やっぱりけじめを付けたいんだろう。
この関係を終わらせるか、恋人という関係に収まるか。
終わらせたくないと考えてくれているからこうして事前に了解を取っているのだと思うと、けじめとして成立しているのかは怪しいわけだが。
私が断って、この関係が終わってしまったら、ノボリさんはまた新しい恋をするんだろうか。
もし他の女とノボリさんが付き合うことになったらと思うと、煙草を吸っているのに苛立ちが襲ってくる。
煙草みたいにノボリさんが何人もいればこんなことはないのに。
同じ銘柄を吸っている人に親近感を覚えるように、親しみだって感じることができるのに。
そんなことはありえないとはわかっているけど。
こんな、恋する乙女みたいな嫉妬心を私が持つことになるなんて。
これからも近くにいてほしいし、手を伸ばしたら抱きしめてほしい。
私も、手を伸ばされたら抱きしめるから。
ノボリさんに言われるまでもなく、選択肢なんて元からなかったのかもしれない。
「なまえ様、わたくしは」
以前は平気な顔で告白してきたのに、今は真っ赤な顔で必死に言葉を吐き出しているノボリさんがあまりに可愛くて、思わずその決死の覚悟を遮ってしまう。
「はいはいはい、好きですよノボリさん」
「え」
ぽかんとした珍しい間抜けな顔に、思わず忍び笑う。
「煙草と同じくらい」
「わ、わたくしは煙草より何よりなまえ様が好きです!!お慕い申しております!!」
「知ってます」
手元の灰皿に、まだ長さがある煙草をぎゅっと押し付けて。
正座の膝の上でそわそわと動く手を握り、今までのじゃれあいのようなキスなんて吹っ飛ぶほど濃厚なキスをしてやる。
煙草の後味を拭い去るように必死に食らいついてくるノボリさんに、こんな雄くさい顔もできるのかとちょっと驚いた。
本当は私も、煙草よりずっとノボリさんが好きなのかもしれない。
だってあなたがいないと禁断症状が出る。