風邪をひきましたという連絡を受けて、日頃お世話になっているわけだし(主に食事方面で)とりあえず形だけでもお見舞いに来たら、ノボリさんと同じ顔のお兄さんに何だかんだと看病を押し付けられてしまった。
「ぼくバトルがあるから!」らしい。
知ったことか。

しかしだからと言って折角来たのに回れ右するのも何だし、お願いされたあれやこれやを思い出しながらノボリさんが寝ているという部屋を覗いてみる。
ベッドの上でげほごほ言っているのがおそらくノボリさんだろう。
お見舞いだけ渡して帰るつもりだったんだけど、どうもそういう訳にはいかないみたいだ。

観念して部屋に入ると、ノボリさんが額に冷やピタ、口にはマスク、枕元には水と薬という完全装備で寝付いていた。
こちらを物言いたげに見てくる瞳も赤いし潤んでるしで、もう見るからに病人臭が漂っている。

「何風邪ひいてるんです。煙草吸えないじゃないですか」

大丈夫ですか?とか優しく聞くのがセオリーなんだろうけど、この部屋に来て1番に思ったことがこれなんだから仕様がない。
だって私の優先順位の中ではノボリさんより煙草が上なのだ。
流石にこんなあからさまな病人の看病をしながら煙草をふかすほど私は風邪をなめてない。

まあ、あまり状態が悪くないようなら吸わせてもらおうと思っていたから一応持って来てはいるんだけど。
ここで煙草に火を付けたら鬼と言われても反論できないので、バックの中で待機中だ。

「……た…こと、わ……ごほ、っが、ごふっ」

マスクの向こうからすごい咳が聞こえてきて流石に焦ってしまう。
この人血でも吐くんじゃないだろうか。

「あの、苦しいんでしたら喋らなくても大丈夫ですから。もし言いたいことがあるなら筆談でも…」

何か書くものを探そうと部屋を見回していたら、弱々しい力で袖を掴まれた。
ノボリさんが苦しそうにマスクをずらして、ぜーはーと今にも死にそうな呼吸をしている。
何だろう、遺言でも託そうとしてるんだろうか。
そういうのは私みたいな他人にではなく、病人を置いてバトルしに行ったさっきのお兄さんみたいな家族の人に託すべきだと思うんだけど。

いつもより体温が高い手に握りしめられながら、ノボリさんの呼吸が落ち着くのを待つ。
どれだけ熱があるのか知らないが、体温がまるで子供みたいで温かい。
と、ノボリさんが泣きそうな顔でこちらを見ながら叫んだ。

「…っ煙草とわたくし、どちらが大事なのですか!」
「煙草」

迷うことなく即答だった。
今わの際みたいな顔しながら何をわかりきったことを言っているんだ。
私は自分に正直であることを信条にしているので、たとえ相手が病人でも気休めなんて言いません。

案の定ノボリさんがひどく落ち込んだ顔を見せるが、彼もどんな答えが返ってくるかぐらい予想できていたはずなのだ。
もう少し自分に優しい答えが返ってくる質問をすればよかったのに。

「そんな、即答なさらなくても……っは、げほっ」
「でもノボリさんも大切ですよ」
「!!」
「煙草の次に」
「っこ、これは喜ぶべきか悲しむべきか…!」

私としては最大限の親愛を示したつもりなんだけど。
熱にうなされながら苦しい呼吸を続ける彼に笑いかけながら、とりあえず温くなっている冷やピタを交換してあげた。

「……ありがとう、ございます」

うん、やっぱり苦しんでる顔よりそうやって喜んでる方が素敵ですよ、ノボリさん。



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